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第三章 まじないの物の怪
むかしから、わたしは目が合うだけで、みんなから好かれた。そりゃあ、わたしは美少女だから、当然だ。
だけど最近、ちょっとおかしい。五年生の春くらいから、だっけ。
前までは、目が合うと相手が「ふわわ~」って、わたしに見とれるくらいだった。それが、今日の吉田くんみたいに、すぐ「好きだ!」って迫ってくるようになって。正直、ちょっと怖かった。
それだけ、わたしがめちゃくちゃ、かわいくなってしまったのかと思ってたけど。もしかして、べつの理由があった、ってことなの?
(おまじない、だっけ)
「三条くん。ちょっとつきあって」
放課後、わたしは腕組みをして、どーんと三条くんを誘った。
やっと放課後。長かったよ。あれからずっとモヤモヤして、授業に集中できなかった。それで先生にも怒られたし、まったく三条ソウマめ!
「ああ。おれも話そうと思っていた」
三条くんはメガネをちゃきっとして、うなずく。わたしたちはふたりで学校を出て、近くにある公園のベンチに座った。夏の公園は暑い……けど、噴水の近くのベンチだから、ちょっと涼しいかも。セミがみんみん鳴いている中、わたしは腕を組む。
「今日は撮影ないから、ゆっくり話せるよ。それで、なんだったの? 昼間のアレ」
わたしはずばり、聞いてみた。すると三条くんも、ずばりと返す。
「あれは、まじないの物の怪だ」
「まじないの、もののけ……?」
「そうだ」
三条くんは淡々とした声で語りだした。
「九重さんは、おまじないが好きか?」
「信じてはないけど、まあ、面白いとは思うかなあ」
「いま世に知られているおまじないは、手順を間違えなければ、力を発揮するものが多い。ふつうは気休め程度の力しかないんだが」
えええー、三条くん。おまじないなんて、信じてるの⁉
そんなことは言えなかった。だって、昼間のアレを見ちゃったんだもん。態度が突然変わった吉田くん、その吉田くんになにか唱えて、おでこに星を光らせて正気に戻してしまった三条くん。
「ときどき、強い気持ちをこめたおまじないには、意思が宿って暴れてしまう。それを、まじないの物の怪、とおれたちは呼んでいる」
「物の怪ねえ」
「簡単に言うと、おまじないの暴走だな。それがいま、九重さんにも起こっている」
んんと? つまり……。
「目が合うだけで、わたしを好きになっちゃうのが、その物の怪のせいってこと?」
「そうだ。意外と物分かりがいいな」
「なにそれ、バカにしてる?」
むっと口をとがらせる。三条くん、ちょいちょい失礼かも。
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