第三章 まじないの物の怪

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「おれが見たところ、この春から、突然、ひとに熱狂的に好かれるようになっただろう?」 「あ。それはそうかも、だけど……」  三条くんはきりっとメガネを押し上げる。 「ただのおまじないなら構わないが、暴走をはじめた物の怪は祓う必要がある。おれは神社の息子。物の怪を祓うことが仕事だ」 「へえ……」  わたしは、ぼうぜんと繰り返す。 「まじないの、物の怪。……長いね。マジモノって呼んでいい?」 「は?」  三条くんは不意を突かれたように、素っとん狂な声を出した。 「そんな軽い呼び方……。まあ、いいが……」  よし、じゃあ、マジモノで決定だ。 「九重さん、モテたいとかなんだとか、浮ついたおまじないをしなかったか?」 「してないよ」  首をふると、三条くんは眉をひそめた。  なにその顔。信じてないな! 「本当に?」 「ほんと!」 「だが、確実に九重さんのおまじないは暴走している」 「そんなこと言われても……」 「モテたい、愛されたいという願いが暴走して、ひとを引き付けすぎているんだろう」 「いやいや、ほんとにしてないんだよ。だってさ、わたし、かわいいじゃん?」 「……は?」  あ、「なんだこいつ」って思ってそうな声だ。むっとしたけど、とりあえず続ける。 「だ、か、ら! わたし、かわいいもん。おまじないなんかに頼る必要ないし」 「だが、あれは物の怪だ。必ずおまじないをしているはず」  食い下がってくる三条くん。またまた、わたしはむっとする。 「なに? わたしがモテてるのは、全部おまじないのおかげだって言いたいわけ?」 「今日のは確実に、そのせいだろう。おれが祓うと、吉田くんの恋心は消え失せた。九重さんを好きだと思った気持ちは、おまじないのせいだ」  三条くんも、ちょっとむっとした声を出す。 「あと写真ごしでも、おまじないの力は及ぶようだぞ」 「はあ? なにそれ」  わたしはいよいよ口をとがらせた。  それってつまり、いままで、みんなに好かれていたのは、おまじないのおかげ。わたし自身の魅力じゃないって言いたいわけ? モデルとしての人気も?  あ、ダメだ。  ぴきぴきっと、心にヒビが入って、真っ赤な感情が噴出する。 「帰る!」  わたしは勢いよく立ち上がった。  びっくりしたように三条くんが見上げてくる。 「わたしが好かれてるのは、わたしの魅力だもん!」 「九重さん、待て。物の怪はほうっておくと危険だぞ」 「知らない! じゃあね、三条くん!」  やっぱ、意味わかんないやつじゃんか、三条ソウマ! わたしのこのかわいさがわからないなんて!
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