18人が本棚に入れています
本棚に追加
/48ページ
「おれが見たところ、この春から、突然、ひとに熱狂的に好かれるようになっただろう?」
「あ。それはそうかも、だけど……」
三条くんはきりっとメガネを押し上げる。
「ただのおまじないなら構わないが、暴走をはじめた物の怪は祓う必要がある。おれは神社の息子。物の怪を祓うことが仕事だ」
「へえ……」
わたしは、ぼうぜんと繰り返す。
「まじないの、物の怪。……長いね。マジモノって呼んでいい?」
「は?」
三条くんは不意を突かれたように、素っとん狂な声を出した。
「そんな軽い呼び方……。まあ、いいが……」
よし、じゃあ、マジモノで決定だ。
「九重さん、モテたいとかなんだとか、浮ついたおまじないをしなかったか?」
「してないよ」
首をふると、三条くんは眉をひそめた。
なにその顔。信じてないな!
「本当に?」
「ほんと!」
「だが、確実に九重さんのおまじないは暴走している」
「そんなこと言われても……」
「モテたい、愛されたいという願いが暴走して、ひとを引き付けすぎているんだろう」
「いやいや、ほんとにしてないんだよ。だってさ、わたし、かわいいじゃん?」
「……は?」
あ、「なんだこいつ」って思ってそうな声だ。むっとしたけど、とりあえず続ける。
「だ、か、ら! わたし、かわいいもん。おまじないなんかに頼る必要ないし」
「だが、あれは物の怪だ。必ずおまじないをしているはず」
食い下がってくる三条くん。またまた、わたしはむっとする。
「なに? わたしがモテてるのは、全部おまじないのおかげだって言いたいわけ?」
「今日のは確実に、そのせいだろう。おれが祓うと、吉田くんの恋心は消え失せた。九重さんを好きだと思った気持ちは、おまじないのせいだ」
三条くんも、ちょっとむっとした声を出す。
「あと写真ごしでも、おまじないの力は及ぶようだぞ」
「はあ? なにそれ」
わたしはいよいよ口をとがらせた。
それってつまり、いままで、みんなに好かれていたのは、おまじないのおかげ。わたし自身の魅力じゃないって言いたいわけ? モデルとしての人気も?
あ、ダメだ。
ぴきぴきっと、心にヒビが入って、真っ赤な感情が噴出する。
「帰る!」
わたしは勢いよく立ち上がった。
びっくりしたように三条くんが見上げてくる。
「わたしが好かれてるのは、わたしの魅力だもん!」
「九重さん、待て。物の怪はほうっておくと危険だぞ」
「知らない! じゃあね、三条くん!」
やっぱ、意味わかんないやつじゃんか、三条ソウマ! わたしのこのかわいさがわからないなんて!
最初のコメントを投稿しよう!