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無慈悲にも電話は切られてしまった。彼女の他に思い浮かぶのは短い銀髪の難しい顔をした少年。しかし、ここは第一区でも有数のセキュリティを誇る女学院。部外者の、しかも男の彼はここには入れない。
「私、何もしてないのに......」
昼中の授業の間にはあれだけ騒がしかった踊り場には誰も居ない。いくつもの角を曲がって、体育館の裏口から暗幕に隠れる。真っ暗の布の中で息を殺す。
(私はゴミじゃない!! お願い”事故”で殺さないで......!)
この都市ーーネオ東京02で殺されることは私の存在の無価値を証明する。落ちこぼれた無能の存在だという烙印を押されること、それだけは絶対に避けたかった。
しかし、そんな淡い願いを打ち砕くようにコツコツとヒールの足音は近付いてくる。
(もう無理だ。殺されてしまう)
殺される位ならば、私は私の中の掟を破ろう。絞り出すような声で喉を震わせる。
「ーーーー!」
暗幕が開けられそうになったその時ーー激しい金属が打ち合う音がした。何が起きているのかを見る勇気はない。
暫くして一度だけ聞いた覚えのある声がした。
「助けにきたよ。依頼人」
その”少年”は来た。”綺麗な艶のある長い銀の髪”と”女学院のスカート”をたなびかせて。
「......え?」
ーーこれは私、伊瀬知 美柑が出会ったある殺し屋達の話である。
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