【第一章 一節 世界一事故率の高い街】

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(......わからない)  私はこの街に生まれたことを誇りに思っているし、とても良い街だと思っている。  ネオ東京はかつてあった東京・神奈川・千葉・埼玉を5つの都市に分割し、再編成した街である。もう100年程度前に奇病感染症(テーレンシー)が広がった際に新しい都市のあり方を模索してこのような形になったらしい。それぞれの都市ごとに奇病感染症経験者の二等民のブロックと非感染者の一等民の居住区を分割して分担している。  ネオ東京01からネオ東京05までの街があるらしいが、私たちはこのネオ東京02から出ることはできない。出る必要もない。奇病感染症(テーレンシー)がおさまってきてもう10年になるけれど、誰一人として他のネオ東京に行きたいという人は聞いたことがない。  デジタルデータ越しに見る他の都市は諍いごとが多くて大変らしい。でも、このネオ東京02だけは違う。  "円満で幸せな人間生活を送るために気に入らない人間は殺し屋に依頼して殺しても良い" これがネオ東京02の暗黙のルールだ。かと言って、何も毎日凄惨な事件が起こるわけではない。あくまで”事故”によって静かに嫌われ者はいなくなる。用水路に足を滑らせ、うっかり海に落ち、自然かつ明示的に確実に死んだとわかる形で事故に遭うのだ。そして政府による死亡通知書によって、その死はコミュニティにとって確実なものとされる。  たまに被人道的だとか、怖いだとかいう声を聞くけれど、このシステムがあるお陰で私達の日常はすこぶる快適なのだ。だって、人様に迷惑を掛ける”要らない存在”が自動的に排除されるのだから。  ゴミが自動的にゴミ箱に持っていかれるような、そんな清潔感すらここにはあった。
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