【第二章 五節 裁断鋏とまち針】

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 私は目を開いて見てしまった。薄暗い中布を被った小さな少女がこちらへやってくる。その一人称も、職業も、私は知っている。初めて見る端切れを繋ぎ合わせて作られたカラフルなスカート、濃紺のポンチョは素材こそボロだがそのデザインは一区で並んでいてもおかしくはない。 「なんだ小娘。今は取り込み中だ」 「それは残念ねーーでも、あたしも大事な用事の最中なんだッ!」 「!?!?」  火に照らされた小さな煌めきと共に大量に空にばら撒かれたまち針の数々。落ちていく小さな凶器に思わず男たちは目を瞑る。刃の長い裁断鋏で金島カナヱは私の手足の拘束を解いた。 「美柑! あたしのことはいいから! 逃げてー!」 「ふふへ(カナヱ)! ふふへへ(どうして)!」  猿轡をジョキンと切り落として、カナヱは私を男たちの反対側へと押し出した。 「えへへー。帰って袋を開けたら思ったより道案内の報酬が良かったから、かなー。もう少しだけ、美柑の助けになったげる!」  飛び上がった金島カナヱは5人の男達に立ち向かう。スカートのポケットから先程とは異なる裁断鋏を両手に取り出して躊躇なく男の皮膚を裂いた。  飛び出した鮮血が金島カナヱの頬を濡らす。 (金島カナヱは一体ーー! いえ、今は逃げなきゃ)
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