【第二章 五節 裁断鋏とまち針】

5/10
前へ
/124ページ
次へ
*  息が切れるほどに走ることは日常生活では殆どなかった。女学院ではお淑やかさを求められるし、運動の才のないものは日常的に走り込んだりなんかしない。 「はぁっ......はぁっ......」  金島カナヱに任せて大丈夫だったのだろうか。置いてきて良かったのだろうか。まとまらない思考を無理やり置いて、今はひたすら走る。 「......ゲホッ......」  慣れていないせいで呼吸がうまく出来ない。あれからどのくらい走っただろうか。足がもつれそうで、それでも走らなければならなくて、辛い。肺が痛む。喉が悲鳴を上げる。それでも、生きたい。  生きて、普通の生活がしたい。 「おいっ! 待て!!」 「きゃっ!」  あれ程にまで一生懸命走ったのに、先ほどの5人のうちの1人に追い付かれてしまった。強く肩を掴まれて転ばされる。地面の泥の味がして、見上げると、腕に切り傷のある男が般若の形相で私を見下ろしていた。 (所詮私は落ちこぼれ。ここまでだって言うの?)
/124ページ

最初のコメントを投稿しよう!

19人が本棚に入れています
本棚に追加