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男は腰からナイフを取り出して、私に向けた。
この人がここにいるということは金島カナヱはどうなったのだろう。私は一体、どうなるのだろう。
耳をつんざくような声で男は私を罵った。
「一等民は綺麗な肌をして、綺麗な街に住んで、それなのに俺たち二等民をこき使おうとする! 恥ずかしいと思わないのか!」
それは二等民の呪詛だった。
「俺たちは奇病感染症の者達が集められた中に住んでいた! いつ病原菌に感染して耐え難いほどの苦痛を受けるかわからない! 薬はなかった! 治っても身体にアザが出来、醜くなる! 病に冒される恐怖を知らないお前達が何故また二区を脅かすんだ!」
私が直接奇病感染症の菌を撒いたわけではないし、一区と二区の不平等な政治を作ったわけでもない。それでも私は、一区からは不要と言われ二区からは怨みつらみをぶつけられるサンドバッグとして今扱われている。
「あの賢者とやらも一緒だ! 一区からの手先に違いない! 俺たちに良いような顔をして、一等民と裏で手を組んでいるに違いない!」
(そんな! 先生は本当に心から二等民のことを思っているのに!)
この社会は複雑で、誰かの正しい想いも正しくは伝わらない。平気で誰かを傷つけるし、利害のためなら躊躇なく人を殺せる。
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