【第二章 五節 裁断鋏とまち針】

7/10
前へ
/124ページ
次へ
「それで私を殺して満足なの!? あなたの生活も二等民を取り巻く環境も、何も変わらないわ!」 「変わるさ。俺が一瞬、スカッとする」 「ーー!」  私の命は今、一瞬の快楽のために散らされようとしている。 「明日まで待つ必要なんてない。今ここでお前を殺す。賢者は役に立つから軟禁しろと言われていたが、お前に用事はない」  鈍い銀色のナイフが私に迫ってくる。  絶対絶命のピンチに私が叫ぶ名前は一つだけ。 「助けて......助けて、マオ!」  彼は今一区に居るはず。あの時と同じ。ここに助けに来れるはずなんかない。でも、聞こえた声は幻聴ではなかった。 「助けに来たよ、伊瀬知さん」
/124ページ

最初のコメントを投稿しよう!

19人が本棚に入れています
本棚に追加