【第二章 五節 裁断鋏とまち針】

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* 「殺し......たの?」 「いいえ。気を失わせただけです」  私にはよく見えなかったけれど、マオは明らかに男に何かをしていた。ガックリと弛緩した男の身体は泡を吹いている。  倒れた男の持ち物を漁って、マオは私に一枚のカードを手渡した。 「身分証は手に入れました。遅くなってすみません。帰りましょう」  マオは座り込む私に手を差し出す。前は差し出されなかった手だ。私はその手を握って、温もりを確認する。 「待って。友達が私の身代わりになって」
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