序 章

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 脚本家と監督?  首をかしげた遼玲に向かって、脚本家が口を開いた。 「解礼公主が嫁いだ当時のウルムーテは温暖な草原地帯で、遊牧民国家が乱立する東西交易路の中心地域でしたが、現在は砂漠化が進んでゴビ灘や砂礫が多くなっています。だから映画は、昌州の草原で撮影することになりました」  昌州と聞いて、遼玲は急にドキドキしてきた。 「ここは少数民族の草卉族居住区で、華語があまり通じないそうです」 「草卉族の方々にも撮影に協力してもらうため草卉語を話せる者が必要ですが、ほとんど見つからなくて」 「それで劉教授に相談したら楊さんの名前が挙がったんです。通訳として映画撮影に同行してもらえませんか? もちろん謝礼は支払います」  突然の話に遼玲が面食らっていると、劉教授が口を挟んだ。 「撮影は夏休みに入ってからだし、その時期は草原の植物がもっとも咲く時期だ。非開放地区に行ける機会はそんなにないだろう。君にとって、悪い話じゃないと思うがね」  その言葉でハッとする。劉教授は遼玲が昌州に行きたがっていることを覚えていて、この話を知らせてくれたのだ。 「楊くんは毎年、フィールドワークに応募していただろう。君の事情は知っているが、金銭的に困窮している学生が優先だから、君を選ぶのは難しいんだ」 「わかっています。配慮して下さって感謝します」  昌州に行けるなら、映画の撮影隊でも構わない。植物採集する時間くらいあるだろう。  二人は代わる代わる撮影スケジュールや撮影隊についての話を聞かせた。草卉語を話せる人間を逃したくないらしい。  撮影は八月初めの三週間。発香期が終わったばかりで、それも都合がいい。  草卉語を話せる人間は少ない。多くの少数民族はすでに共通語である華語を話すようになり、文字も言葉も急速に消えようとしている。  草卉族は交通事情のよくない高原地域に居住しているため、比較的、固有の文化が保たれているのだ。 「ところで、きみが草卉語を話せるのはどうして?」 「母が草卉族なんです」  香種だということは伏せておく。 「なるほどね」 「じゃあ、連絡先を教えてもらえるかな? あとで詳しいスケジュールを送るから」  連絡先を交換して、遼玲はうきうきと教室に向かった。 「どうした? 何かいい話だったのか?」  午後の授業で、アレンが訊ねた。  遼玲が映画の件を話すと、アレンは「よかったじゃん」と喜んでくれた。 「大丈夫かよ。映画の撮影隊って大人数じゃないのか?」  高敬は心配そうだ。 「役者とスタッフ合わせて三十人くらいって言ってた。あとは現地のエキストラが五十人くらい」 「その中に貴種がいるかもしれないだろ。遼玲が香種だってそいつら知ってるのか?」 「知らないよ。初対面でそんな個人情報、教えるわけないだろ」  高敬はますます心配そうに眉を寄せている。 本日、BLトレンドランキング2位👀‼️ 昨日の夕方、公開したばかりで、この順位🎉 たくさんの閲覧、スター、ありがとうございます🙏 初日のご褒美ランキングとわかっていますが、嬉しい~🥰 c54d05a1-19b3-4bab-96f7-133b114c36a7
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