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「大丈夫だって。八月初めなら発香期終わった直後だし、撮影は三週間だけだよ」
「うーん、でもなあ」
「俺はいいと思うな。自分が望んでいた方へ行けるなら流れに乗ってみれば。香種は特にその傾向が強いようだけど、呼ばれる方に向かうと運命に出会えるらしいから」
「運命って伉儷(こうれい)ってことか?」
伉儷とは非常に強い結びつきの貴種と香種の組み合わせを指す言葉で、世間では「運命の相手」ともいう。
「人かもしれないし仕事かもしれないけど、とにかく自分のための何かに出会えるんだってシェリーは言ってる」
シェリーはアレンの伉儷だ。
「わかる気がする。この話を聞いた時から、なんかすごくわくわくするというか、いいことがあるような気がしてる」
「そりゃ昌州に行けるからじゃねーの?」
「もちろん、そうなんだけど。何ていうか、すごくいいことが起きる気がするんだ」
遼玲はふと思いついて訊ねた。
「アレンはシェリーに会った時、やっぱりこれが自分の運命の相手だって、ひと目でわかった?」
「いや。どっちかというと、会った瞬間、すごく警戒心がわいたな」
「え?」
「あとでシェリーに訊いたら、シェリーは嫌悪感を感じたって言ってた」
「運命の相手ってお互いに好意を感じるんじゃないのか?」
「俺とシェリーは絶対仲良くできない立場だったんだ。ライバル企業の創始者の家系だったから」
「え、そうだったんだ」
「真っ白な状態で会えば違ったかもしれないけど、互いに遠ざけるべき相手と思って出会ったから、そんな反応になったんだろうな。でも結局は、逆らえないんだ、運命の相手には」
「逆らえない?」
「ああ。俺がシェリーに会ってわかったのは、依存してるのは貴種のほうだってこと。世間では貴種が香種を従えてると思ってるだろ?」
俗に貴種は支配者、香種は愛玩物などと揶揄されることがある。
「うん。違うの?」
「違うね。貴種は香種には逆らえない。香種の望みを叶えようとしてしまう。香種の幸福が貴種の望みだから。だからシェリーが俺と別れたいって言った時も、うなずかざるを得なかった」
「そんなことがあったんだ。でも結婚するんだろ?」
「ああ。この留学が終わったら式を挙げる。で、とにかく伉儷ってのは、際立って自分の気を引く存在だ。そういう相手に会ったら、絶対に手放しちゃいけない。自分の感覚を疑っちゃいけない」
アレンの眼差しは真剣で、遼玲は気圧されたようにうなずいた。
「わかったよ。そんな相手に会えたらそうするよ」
もちろん、この時、遼玲は知らなかった。
伉儷がどんなに香種を振り回して、そしてどんなに貴種を振り回す存在なのかを。
序章完
ぜひ最後までご覧くださいm(__)m
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