1/1
49人が本棚に入れています
本棚に追加
/153ページ

「村長!見てください!あれは……!」 「ああ…… ついに、ついに…… やった……」  ヴァルバラが立っていた。  燃えるような赤い瞳、凍り付くような灰色の肌、美しい紫の髪は腰の辺りまで伸びている。口からはパトラの血が垂れていた。  レギュラの面影を彷彿とさせるが、10代の娘の姿であること、そして圧倒的な高貴さを持っている点において異なる存在感を放っている。  村人たちは皆、あまりの感動と美しさに、膝から崩れ落ちた。  誰も言葉を発することはなく、ただ祈りを捧げ、感涙し、その僥倖に身を震わせていた。  ヴァルバラは周りを見渡し、足元に横たわる生贄に気がつくと、腰を落として抱きしめた。 「ごめんね」  ヴァルバラは立ち上がり、何も言わずゆっくりと歩き始める。すると、祈りを捧げていた人々は皆、自分の使命を思い出したかのように動き始めた。結界を解除し、パトラに回復魔法をかけて服を与える。  ヴァルバラはパトラの命を吸い尽くしてはいなかった。そうする必要もないほど、天才魔法使いの血に含まれた魔力は膨大で、純粋で、生命に溢れていた。  ヴァルバラは地下室を出て、テオドロス、転生主義者、原理主義者たちが戦っている戦場の中を悠々と歩いていく。  魔法が飛び交う中、不思議とヴァルバラにその攻撃が当たることはなかった。  ヴァルバラは戦場の中央に立った。 「おやめなさい」  小さく一言だけ、ヴァルバラは言葉を発した。  数秒前まで殺し合いをしていたその場の全員が、興奮、怒り、殺意などの記憶を失ったかのように心が穏やかになり、片膝をついてヴァルバラへの敬意を示した。  魅了や支配の力の影響を受けにくいと自己分析していたテオドロスですら、その例外ではなかった。  そこにいる誰もが、神に魅了され、支配された。
/153ページ

最初のコメントを投稿しよう!