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近衛兵
人生で一番美しい朝日で目を覚ました。朝日がここまで美しくなる。寝室が絵画のように映える。きっと太陽の光の角度も計算されて設計されているのだろうな、と思った。
アリスはすでに起きていて、ルナの服や食事はもちろん用意されていた。
「王女より遅く起きるとはねぇ〜、ルナ様〜?」
あえて意地悪そうな声を作ってアリスは言った。
「大変申し訳ございません、アリス様」
「ああっ!うそうそ!敬語やめてよ〜!」
ふふっと笑う声の方向を見ると、真顔に戻っていたクロエと目が合った。
「ねぇ、ルナは今日帰っちゃうの?それともずっとここに居る?」
「今日、帰ろうと思います」
「そっか……あっ!そういえば!」
「なんですか?」
「勝負しようよ!!」
朝食を終えて中庭に出ると、ルナは剣を渡された。
「ルナ、本当はめちゃくちゃ強いってこと知ってるんだよ? 剣士として!」
「えっ?」
剣を振ること自体、あまり身に覚えがなかった。唯一あるとすれば、鍛冶屋で売っている剣の感触を確かめたいと言うお客のために、"立ち合い"に応じることがある……それくらいであった。
「テオ君が言ってたんだよ。」
「テオ君?」
「そう、テオドロス・ファン・トリヒーなんちゃらかんちゃらって名前の近衛兵団の団長でね、私の幼馴染で、世界最強の剣士!」
――いや…… 幼馴染で世界最強の剣士ならちゃんと名前覚えてあげて……
「そのテオ君がね、近衛兵団に採用する新しい剣を探してて、ルナの店にも行ったの。その時にルナと立ち合いをしたらしいんだけど、自分の剣技をいなされた!こんな事は初めてだ!って驚いてたよ!」
「なるほど」
「女の子なのにそんな強い人がいるなんて、どんな人なんだろうって思ったら、いてもたってもいられなくて。王宮を抜け出してルナの店に行ったんだぁ」
「では、テオドロス様もまた、間接的に私の命の恩人なのかもしれませんね」
「いやいや、あんなやつに感謝しなくていいから!」
ルナは王宮で採用されている剣を見た。剣とは思えぬほどの煌びやかさではあったが、握った感じも悪くない。決してその辺に売ってる剣に実用面で劣ることはないだろうとすぐにわかった。
「今日帰っちゃうって言うから焦っちゃってさあ! 食べたばっかりなのにごめんね!」
「いえ、全然構いません。どうぞ、かかってきてください、アリス」
「うおおおし!行っくぞー!」
キン、キン、キン、
真面目な顔をしながらアリスの剣を軽々と受け流すルナ。だが頭の中は全く別のことを考えていた。あまりに美味しかった昨日からの食事、美しい王宮、まどろむような陽の光に包まれる中庭の景色を楽しんでいた。
――王宮の紅茶、この中庭で飲みたいな……
キンッ!
アリスの剣が空中に弾かれ、サクッと中庭の土に刺さった。
「本当に……強いいいいい!!」
「ありがとうございます」
「ねぇルナ……。いきなりなお願いなんだけどさ……」
「はい、なんでしょう」
「近衛兵になってよ!」
「えっ?」
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