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帰宅
ルナは近衛兵の話を持ち帰った。
アリスによって吹き飛ばされたはずの鍛冶屋の戸は、古い木造建築に似合わぬ煌びやかな扉に変わっていて、引くほど異彩を放っていた。アリスが命じたのだろうと察しがついた。
「ありがとうございました。テオドロス様」
馬車から降りたルナは、わざわざ家まで送り届けてくれたテオドロス近衛兵団団長にお礼を述べた。
アリスと同じような美しい金髪に、赤いルビーの瞳をしている美少年だ。身体も大きいわけではないが、さすが国王直轄の軍事組織の長だけあって、立派な騎士の出で立ちだ。この少年が世界最強の剣士……と思いながらルナは眺めた。
「テオ、でいいですよ、ルナさん」
「いえ、そんな……」
「アリスもそうですけど僕も、呼ばれ方なんて気にしないんです。平民や貴族といった階級さえも、重要だとは思っていません」
確かに、王家直属の近衛兵は一般の鍛冶屋が作る剣ではなく、元貴族や貴族の血縁者などが営む武具屋からしか武器を採用しないと職人の間の噂で聞いたことがある。
テオドロスが平民であるルナの父の店を近衛兵の正式な武器採用候補として考えていたのも、革新的な考えの人だからなのだと納得した。
「それでは、僕はこれで」
「本当にありがとうございました」
鍛冶屋の前で見送り続けるルナが小さくなっていく。テオドロスは何か考え深げにルナを見ていた。
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