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心の強さ
ルナは長期休暇を与えられていたが、体調が回復するとテオの執務室に呼ばれた。
「体調は大丈夫か、ルナ」
「はい。吸血衝動もないです。それでも団長の血は飲みたいですけど」
「ふっ、冗談を言えるまで回復したか」
「……えっと……冗談じゃなかったんですけど……」
ルナは視線を逸らしながら、テオに聞こえないような小さな声で言った。テオは続ける。
「ルナ、すまなかったな。もっと早く気が付くべきだった。お前の命を救った人間だと、油断していた」
「……いえ、パトラは悪くありません。転生主義者でありながら、それに背いて命を投げ出し、私を助けようとしてくれました」
パトラを責めるどころか、心から感謝した表情でルナは続ける。
「それに、彼女がいなければ、そもそもモサイナ公国で死んでいました。そして、ハテナイ村に連れて行ってもらえなければ、結局死んでいたでしょう」
ここまで死の淵をずっと歩いてきたのに、もうルナは笑顔を見せている。
テオは彼女を近衛兵にした理由を思い出した。それはずば抜けた剣術でも、特殊な体質が理由でもない。黒い瞳の奥にある、心の強さを見抜いたからである。
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