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貴族の提案
カラン、カラン
無駄に豪華に生まれ変わった鍛冶屋の扉を開けたのは、その扉に負けず劣らずの豪華な服装を着た人物と、その護衛の兵士と思われる人々だった。
「どうも初めまして、ルナさん。私はゲイル・フォン・シュテルヴヘルム。貴族であり、王家から武具の生産を任されている由緒ある家系のものです。ゲイルとお呼びください。」
「お初にお目にかかります、ゲイル様。今日はどのようなご用件でしょうか?」
「いやいや、それほどの用件でもないのですがねぇ。それよりも、あのようなことがあったのにまだ店番をされているとは、驚きですなぁ!」
ゲイルはあの事件のことを知っているようだった。この近くの住民ならまだしも、どこか遠くの貴族にまで知られていたのだろうか?
「いやねぇ、良からぬ噂を聞いたものですから。あなたがアリス王女殿下に気に入られ、そのコネであなたの父親の剣を王家御用達にしようとしている、などという噂をねぇ…」
「……そうでしたか」
「確かにその美貌たるや、男性ならずとも女性が目を奪われても仕方がない。ですがねぇ、もしも、質の悪い剣を王家御用達にしてしまっては、近衛兵の戦力を削ぐばかりか、国家の威信に関わる問題ですよねぇ」
「確かに、その通りでございます」
「だったらお父上に言ってもらえませんか? この店にあるような質素で華のない庶民の玩具如きでは、王家の剣とは成り得ない…と」
「……お言葉ですがゲイル様。父の剣は質素かもしれませんが、決して玩具と言われるようなものではございません」
護衛の兵士と思われる者たちが会話に乱入する
「貴様ァ!平民風情が貴族であるゲイル様に楯突くというのかァ!」
「待て待て、お前たち。もっと理性的になりなさい。……そうだ、一つ提案があります。その剣の性能を試してみるというのはどうですか、ルナさん?」
ニヤニヤしながらゲイルが言う。
「私が王家に納めている近衛の剣と同じものを今、この護衛の3人は持っている。それとそこの剣を交えて、どちらが優れているか試すんですよぉ〜」
「……」
「実戦に近い形でこの3人の剣を受けて下さい。単純な剛性だけで剣の力は測れぬもの。そして実戦においては常に1対1などあり得ない!」
ようやく意味を理解した護衛の兵士達もニヤニヤと笑い出した。
「あなたは立ち合いとして剣を受けることも仕事としてやっているそうで。ちょうど良いではないですかねぇ? あなたは父上の剣が本物である事を示すことが出来る。そして、私の王国を愛するがゆえの懸念も、杞憂であったと証明できる!」
「……いいでしょう」
カラン、カラン
無駄に煌びやかに生まれ変わった鍛冶屋の扉が開いた。
「ほう、それは面白そうだな」
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