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「今すぐ買ってこい!」  父が卓袱台に手を叩きつけると、ふみは肩を強張らせ、急いで鞄を掴み取った。 「すぐ帰って来るね」  居間を出ようとした妹を、「待って。行く必要ないよ」と僕は引き留めた。  もういくじなしの僕じゃないんだろ、と新幹線並みに進化した僕が僕自身の背中を押していたのだ。 「ああ?行く必要ないってどういうことだ理!」  眉間に深い皺を刻んだ父に、途端に僕の肝が縮んだが、すぐに屈して堪るか!とド根性が湧き、腹から声を出していた。 「父さんが自分で買いに行くべきだ!」 「んだとコラァ?」 「お酒を飲むのは父さんだけなんだから、父さんが自分で稼いだ金で買いに行くべきだ!ふみが行く必要なんかない!」  こんな大きな声、何年ぶりに出しただろうか。壁に貼ったララちゃんのポスターを間違えて破いちゃった時以来だ。  自分でも自分の声に驚いていると、父も目を丸くしていることに気づく。  僕が歯向かうなんて思ってもみなかったのだろう。  今までの僕ならそうだ。  父さんがブチギレたら面倒なことになるし、どうせわかってもらえないと思って、自分の気持ちを伝えようとはしなかった。  けれど、もう、今までの自分とは決別するんだ。 「父さん、僕は。…僕は!」 「なんだよ!俺に文句でも言うつもりか!」 「そうだよ!文句を言うんだ!ぼ、僕は父さんが嫌いだ!仕事しないでパチンコにばっか行って、酒飲んで酔ったら暴れて、ふみに面倒なことは全部押し付けて!父親らしいことなんか何一つしないあなたが、僕は大嫌いだ!!」  部屋が静まり返った。  そんなこと一丁前に言えるような人間じゃない事は、僕自身が痛いほどわかっている。 「偉そうな口利きやがって!」  父さんがそう言うのも理解できるんだ。
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