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「あの…、本当に、ご迷惑おかけしてすみません…」
何度目かの謝罪をすると、イメージ通り丁寧な運転をする若生さんは、ハンドルから片手を離し、私の手前にあるグローブボックスからティッシュ箱を取り出し渡してくれた。
それは鼻を労わる柔らか素材の、ちょっとお高い品。
さっき流した涙は完全に乾いているけど、折角取り出してくれたのに『あ、いらないです』と断るのも悪いと思い、頭を下げながら二枚連続して取り出し、軽く目元を拭っておく。
「放っておけないでしょ。顔なじみだし」
若生さんは困ったように笑いながら言った。
本当のところは関わりたくなかったのかもしれない。
私だってあんな、人を何人か殺めてまっせみたいな怖い顔した眉毛のないスキンヘッドの男らに絡まれてる人がいたら、巻き込まれたくないからと避けていたと思う。
改めて申し訳なくなって背中が丸まる一方で、若生さんに助けられた意外性にソワソワと緊張している自分がいる。
私の仕事先は、若生さんが勤めるそれなりに有名なゲームメーカーの社内にある小さなカフェだ。
たまにコーヒーを頼みに来る若生さんに、まさか助けてもらうことになり、しかも家まで送ってもらう事になるなんて想像もしていなかった。
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