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 石川さんに「人のいない所に行きましょう」と腕を引かれて連れて来られたのは、非常階段に出るドアの前だった。  照明が弱くて薄暗く、汗のせいで肌寒さも感じる場所だ。  怖気づいて背の丸まった僕をじっと見つめる視線だけで、僕は胃がきゅぅっと縮まる気がした。 「理さん」 「は、はい」 「…どうしてあたしの事、避けるんですか?」 「そ、それは…」 「あの夜、あたし何かしてしまいましたか…?」  強張っていた肩が、今の問いかけで少し緩まった。それは僕が訊きたかったことだ。 「え…。ぼ、僕達、あの夜は何もしていないんですか?」  石川さんは僅かに目を広げ、すぐに頬を赤く染める。  そうして気恥ずかし気に言ったのだ。 「したじゃないですか…」 「え!?し、したんですか!?」 「…もしかして覚えてないんですか?」 「そ、それは、あのっ、双方の合意があった上でしょうか!ま、まさか僕が無理やり…」  した、という真実を突き付けられた僕は、やっぱり自分が襲い掛かったとしか思えず、恐ろしくて、震えあがる身体を両腕で抱きしめる。 「大丈夫ですよ、同意の上なんですから。…まぁ、ちょっとあたしが押し倒した感じはありましたけど…。でも理さんもすぐノリノリになったし…」  困ったように微笑を浮かべて話す石川さんだが、僕には彼女の声が聞こえていなかった。  やっぱりしてしまったんだ!ど、どう落とし前を付ければいいんだ!豚の貯金箱には10円玉ばっかり入れてたから足りるわけがない!  ぼ、僕はどうすればっ! 「ああっ…、ど、どう責任を取れば…」  半泣きになりながら頭を下げると、石川さんが僕の腕を両手で掴んだ。 「責任って。大丈夫ですよ?ちゃんと避妊しましたし」  ひ、避妊!?あああ…あわあわ…ぶくぶく…  童貞で知識もそこそこの僕の脳は、避妊という言葉を受けてエラーを起こす。
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