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「仲良くないんならいいんだ」
「…え?」
「気にしないで。ていうか、もう行かないと。アメリカーノありがと」
「いえ。お疲れ様です…」
若生さんは紙コップを持ちあげて軽く会釈し、離れていく。
背中を見つめながら、私は小さくため息を吐いた。
自覚したところでこの関係が深くなるわけではない事はわかっている。
若生さんが私に親切にしてくださるのも、会社に引き入れた銀狼の妹だからってだけだ。
わかっているのに、恋心を自覚してしまったせいで、もっと強い繋がりを望んでしまいたくなる自分に嫌でも気づく。
恋愛としての脈なんかありっこないのに。
例え、脈を自ら作り上げようと決意したとしても、恋愛未経験の私には何をどうすれば正解なのかまるでわからない。
でも、このまま何もしない事が正解だとも思わない。
「あ、あの、若生さんっ」
焦りに似たようなものに駆り立てられ、去り行く背中に声をかけてしまった。
意外そうな顔をして振り返った若生さんと目が合って、ちょっと待って、呼び止めてどうする気だった?と自問して、回答できない。
「どうしたの?」
「あ、えっと、あの、お、お疲れ様です」
唖然とした様子で見つめられ、顔から火が出そうだった。
お疲れ様って、さっきも言ってたやないかい…。
すぐに微笑を浮かべて「ふみさんも。お疲れ様」と言ってくれて助かったけど、再び歩き出した若生さんを見送りながら、情けなくて今度は大きな溜息が出る。
私ってば。何を頓珍漢なことしてるんだ…。
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