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私の溜息は家に帰ってからも続いた。
今日は僕が作るから、と兄が焼きそばを作ってくれたことには感激したし、味も美味しくておかわりまでしたけど、ふと若生さんを思い出してしまうと、その度に溜息が出ていた。
夕食で使った食器を洗い終え、父が前にくれたパチンコの景品から濡れ煎餅を選んで食後のデザートを楽しむ。
父は昨日家を出て行ったきり帰ってきていない。
どこへ行ったのかという心配よりも、帰ってきたらまた面倒だなと思ってしまう私は薄情かもしれないが、不在の方が私も兄も心が穏やかでいられるのは確かだ。
「濡れ煎餅って、濡れちゃった煎餅を勿体ないから食べたら意外と美味しくて、それで商品化したのかな…?」
兄が素朴な疑問を口にしたのでスマホで検索した流れで、兄妹で濡れ煎餅の知識を学んでいる最中でも、私は若生さんを思い出していた。
若生さんは濡れ煎餅好きだろうか。
どんな味が好きだろうか。
人間だったらどんな人が好みなのだろうか。
そもそも、今好きな人っているのだろうか…。
「はあ…」
「ふみ?思ってたんだけど、今日溜息の回数多くない?数えただけでも十三回はしてるよ」
「うそ、数えてたの?」
「うん。全部じゃないけどね。全部数えてたら多分二十五は超えてる」
「それは多いね…」
「多いよ。……なにかあった?」
兄が私の溜息の多さに気づき、気遣ってくれている。いつもはそんなことしないのに。
石川さんとも何かあったみたいだし、兄が変わった原因はそこにあったりして…?
訊いてみたいけど、今は頼りがいのある兄に、久しぶりに甘えてみたくなった。
「あのね、ちょっと相談があるの…」
「相談?う、うん!なに?話してみて」
兄がかしこまったように正座に座りなおすので、私も正座をして背筋を伸ばし、向かい合う。
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