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「……訊くことサムなの?」
「えっ、すみません…」
「いいのいいの。違う感じの、なんていうの、甘酸っぱいイチゴみたいな質問を期待してただけだから」
「イチゴ…?」
「まあいいや…。えーっと、サムね。サムとはいい感じだよ。まだすごい挙動不審だけど、仕事には慣れてきた感じ」
若生さんと同じことを言うので、本当に兄は慣れ始めているのだなと、ようやく安心できたような気がする。
「こないださ、僕のことサムって呼ぶなら、じゃあ僕は登坂さんのことトゥースって呼んでもいいですかって、こんな顔して言ってきたんだよね」
登坂さんは顎を思いきり引いて恨めしそうな目つきを正面に向けた。
「なんでトゥースなのって訊いたら、登坂のととさを取って、外国人風に変換してトゥースなんですって、意味わかんないこと言ってたよ」
「へぇ…」
確かに、私も聞いていて意味がわからなかった。
もしかして登坂さん、兄とどう接すればいいかと困ってたりするのだろうか、と少し不安が過ったが、「トゥースはかっこよくないからやめてって言ったら、シュンてしょげるからさ、なんか犬っぽかった」と笑い出す様子に、私も思わず笑ってしまった。
話が面白かったというわけではなく、兄と仲良くしてくれているのが伝わってきたからだ。
それが嬉しくて、つい口元が緩んでしまった。
その顔が奇妙に見えていたのか、登坂さんが私を一瞥するや驚いたような顔をされた。
「…ふみちゃん、その笑顔はずるい」
「えっ…?」
「いや、ううん。なんでもない」
登坂さんは急に、どこか気まずそうにして首の後ろを指で掻いた。
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