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 それから登坂さんは、健康的な食事や栄養の効率の良い摂り方、筋トレ方法を熱心に語り始めた。  はやく帰りたいと思ってはいたけれど、どれも実生活に活用できて為になるから、気づけばじっくりと耳を傾けてしまっていた。  登坂さんはまだまだ苦手な人だけれど、ほんの少し打ち解けられたかも、しれない。  多分。  最後に残ったひと際大きいイチゴをどっちが食べるかでお互い譲り合っていると、ガラスの壁の向こうで誰かが立ち止まっているのに気づいた。  反射的に顔を向けてその人物を見ると、私の身体の動きが止まってしまった。  そこにいたのは若生さんだったのだ。  わずかに目を見開いて私を見ていた目は、隣にいる登坂さんへ移り、すぐにハート形のワンプレートに下りる。  ワンプレートには『ミッション♡相手のどこが好きか言い合いながら食べてね♡』という文字がそのまま残っている。  向こうから読んだらさかさまだし、文章も長くて小さめなので読めないと思うが、読めてしまったら最悪だと、残っていたイチゴをフォークで刺して慌てて文字をかき消した。  しかし、顔を上げた時、若生さんは丁度顔を背けて歩き出したところだった。  本能的に、やばい、と思った。  今すぐお店を飛び出して、違うんですと引き留めて最初から最後まで全部説明したい気持ちはあったけれど、ショックだったせいか体が動かない。 「若生さんに見られちゃったね。俺たち、付き合ってるって勘違いされちゃってたりして」  それは困る。大変困る!  どうしようと助けを求めるような気持ちで隣を見ると、「でも俺は、それでもいいけどね?」と、練り飴みたいな甘い顔を向けられた。  大量の砂糖を摂取したように胃が急にもたれた気がした。  思わずぎゅっと目を瞑って天井を仰ぐと、ダンベルのように重いため息が漏れる。 「えー、暗っ!ふみちゃん、照れる場面だって、今の」  登坂さんと会話を続ける力は、私にはもうなかった。
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