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≪理お兄ちゃん視点≫
石川さんと手を繋いで駅まで歩き、改札を出たところで「理くん、あたしのこと百花って名前で呼んでほしいな」と上目遣いを向けられてから家に到着するまで、僕は激しい動悸に襲われていた。
あの時は「え、あ、も、ふっ、あ、ふっ、も、え、あ、ふっ、も………、で、できませんっ!」と情けなくもリタイヤしてしまったが、石川さんは笑顔で「大丈夫だよ」と言ってくれていた。
家に一人でいると落ち着いてきた。
「百花、さん」
呟いてみると、一気に体が火照り、衝動的に座布団を抱えて力任せに抱きしめる。
そうして僕は静かに悶えた。
ぬああーっ!
百花さんが可愛すぎる!可愛すぎるんだがー!?
今度の遊園地デート楽しみすぎるんだがー!?
百花さん、どんな格好してくるのかな!僕はどの服を着ていこう…か…な…。
頭の中で自分の姿が浮かんだ。
鏡なんてほとんど見ない日々を過ごしていたが、自分がどんな見た目をしているかはだいたいわかる。
とにかくさえないのだ。
さえなくても別によかったが、百花さんというお洒落界の妖精と付き合っているとなると話は別だ。
「……髪切ろう」
座布団を手放した僕は、代わりにスマホを掴んだ。
ネットのキーワード入力欄に 気弱な男でも行きやすい美容院、と打ち込んで早速検索する。
服も買わないとなと考えていると、玄関のドアの開閉音が聞こえてきた。
父はだいたい乱暴だから、この控えめな音は妹だ。
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