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居間のドアが開いて姿を見せたのは、予想通り妹だった。
なぜか、甘いものたくさん食べて胃もたれしたって感じの顔をしている。
何かあったのだろうか。
「おかえり、ふみ」
「ただいま…」
「帰り遅かったね。大丈夫?何かあった?」
妹は「うん、大丈夫…」とため息交じりに答えて、鞄を部屋の隅にある妹専用の収納棚の横に置く。
そのまま床に腰を下ろしてまたため息を吐きだすので、妹はわかりやすい。
なにがあったのだろう。
今日はうまくコーヒーが作れなかった?
それとも、人前で派手に転んだ?
僕が伝授した恋愛を成就するための秘伝の技の数々をうまく使いこなせなかったとか?
もう一度尋ねて、また兄を頼って相談してほしいと思ったが、それよりも僕は妹に話さなければならないことがあったじゃないかと気が付いた。
「ふみ」
「なに?」
「明日、ふみの誕生日だから、一緒にどこか出かけようよ」
「……え?…あ、そういえば、明日だったね。…誕生日」
喜んでくれるかと思ったが、どうやらすっかり誕生日のことを忘れていたらしい。
妹がぎこちなく笑う様子に、僕は罪の意識を覚えた。
僕は引きこもりになってからの数年間、妹の誕生日をきちんと祝っていなかった。
ふみは僕の誕生日は毎年覚えていて、夜中にひっそり飾りつけをして、美味しいと評判のケーキ屋さんで4号のホールケーキを買って来てくれた。
ケーキの真ん中に飾られた丸い板チョコには、いつも“HAPPY BIRTHDAY お兄ちゃん”と書いてあった。
プレゼントもいつも用意してくれた。
去年は確か、まくら。
猫背改善!快適な眠りをお約束します!とパッケージに書いてあって、半信半疑で使ってみると、数年ぶりにすっきりとした目覚めだった。
あんなにいい物を貰ったのに、僕は妹に何も用意しなかった。
だから妹は、きっと自分の誕生日を心待ちにしていない。
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