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父のそういう場面のことについては何も知りたくもないし、この気品な女性は気品なイメージのままで記憶に残したいし、だいたい僕には百花さんという妖精がいるのだから、この気品な女性のそういう諸々の音かなにかを聞いてしまったら、百花さんに一生顔向けできないって話だ。
僕は勢いよく立ち上がった。
そしてすぐに妹の手を握って立ち上がらせる。
驚いたような表情をする妹に「五分で支度できる?」と尋ねると、妹は戸惑いながらも頷いた。
「別に今すぐ出ろってわけじゃねーよ…」
父は呆れたように言ったが、父と佐和子さんが足を踏み入れた時点で愛の巣と化した我が家に、妹を一秒でも置いてはいけないと思ったのだ。
純粋な妹の耳を汚すわけにはいかない。
守らなければならない。
これは兄の責務だ。
文字通り五分で支度した僕らは、「失礼します」と父と佐和子さんに伝え、玄関へ向かう。
「明日は帰って来いよ!」
玄関で靴を履く僕らに父が声を張り上げて伝えてきたが、僕も妹も返事はしなかった。
きっと妹も、自分勝手な人だな、と不満に思ってたんだと思う。
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