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「さっきのは、ナンパだよね?」 「えっ。いえ、ナンパではなくて。ただたんに絡まれたといいますか…」  私みたいな平凡を絵にかいたようなパッとしない女をしつこくナンパする人なんていないと思う。  仕事帰りに本屋に寄り、立ち読みに呆けていたらいつの間にか夜になっていて、早歩きで駅まで向かう途中でぶつかってしまった相手が、ガラの悪い二人組だったのだ。  ぶつかったことを謝ったら、「謝って済む問題じゃないんだよ。脱臼したわこれ。慰謝料払えよ」と二人に脅され、何度謝っても行ってくれず。  人通りがあるところだったので周囲の人に『まじでお願いですから助けてください!』という目を向けてみても、悲しいかな救世主は現れず、とうとう泣き出してしまった所で目が合ったのだ。  偶然そこを歩いていた若生さんと。  近くの食事処で仕事関係の会議を終え、駐車場まで歩いてるところを、ヤバそうな雰囲気のある二人に絡まれ涙を流す女と目が合い、あ…会社でよく見る子じゃん…、これ、助けないと後味悪いじゃん…、という感じで助けてくれたのだ。  でもきっと、危険だと判断して助けてくれたんだと思う。 「どういうあれなのか知りませんけど、彼女俺の知り合いなんですよ。なんかやばそうなんで一旦預かりますね」  急に出てきた容姿端麗な男に拍子抜けでもしたのか、男らは「え、あー、そうなん…すか」と呟きつつ、あっさりと私を解放してくれた。  見た目と違って実はそんなに肝が据わっていなかったのか、真相の程はわからないけど、とにかく私の背中に手を添えその場から連れ出してくれた若生さんのお陰で、私は助かったのだ。  本当にあのスマートさとかっこよさは、脳内に刻んで一生忘れないレベルだし、白米のおかずにできる。
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