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「でもあのままどっか連れていかれてたら大変だったかもね」 「はい…。あの、危ない所を助けてくださって、それに、あの、送ってくださって本当にありがとうございます」  改めてお礼を言うと、真っ直ぐ道路を見据えている若生さんは、こちらを見ることもなく「いいよ、これくらい」と返す。  これくらい、なんて軽く言うけど、若生さんに家まで車でGO展開は、きっとあの会社に勤めるたくさんの女性社員が憧れるシチュエーションだと思うし、お金払ってなんとかなるならなんとかする人もいるかもしれない。  若生さんは本当に人気のある人なのだ。  会社のカフェでコーヒーを売るだけの私ですら、何度も何度も若生さんの話をしては盛り上がる女子社員の会話を聞いてきたのだ。  意志の強そうな凛とした眉と切れ長の目。スッとした鼻筋と形も色味も良い唇。整髪剤の効果なのかほんのり濡れ感のある黒髪。広めの肩幅。武骨な大きい手。  女なら、『はへぇ…。一度くらい抱かれてみてっぺなぁ…』とついイケない妄想をしてしまいそうな、そんな色気のある人。  きっともの凄い美女と付き合っているんだろうな。 「なにか、ついてる?」 「え?あ、い、いえ!う、運転さばきがこう、すごいと思って!」 「そうか?」 「はい!」  咄嗟に誤魔化して運転を褒めると、若生さんはまんざらでもないように口角を上げたので、私が横顔に見惚れていたのはバレなかったと思う。
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