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「あ。ちなみに青年、どこで働いてんの?」
「お父さん、若生さんもう行かないといけないから」
「いいじゃねーか、気になるんだから」
「僕はオンラインゲームの制作販売なんかをしているPi-chikuという会社に」
「ああ、Pi-chiku!知ってる知ってる!ピーチクっつったら、ほら、あれだよな。理がよくやってるゲームの!あの会社だよな、ふみ」
「うん…、まあ、そうなんだけど」
すると父は後ろを振り返り、玄関に向けて大声を張った。
「おいー!理!おーさーむー!ちょっと出てこい!理!」
「ちょっとお父さん!近所迷惑になるからっ」
「うるせーな!理!出てこい!」
「お父さんっ。若生さんだって帰らなくちゃいけないんだから」
「だって理を紹介しなきゃなんねーだろ。あいつ、ゲーム界では有名なんだろ?ほらなんつったっけ。確か、なんだ、気高き挑戦者、銀狼って名前で轟かしてるんだろ?ゲーム会社の人にご紹介せにゃならんだろう!」
「そんなことする必要ないからっ」
「あいつ引きずり出すか」と父がアパートに向かおうとするので、兄を巻き込みたくない私は父の腕にしがみ付いて止める。
後ろで「銀狼…?」と若生さんが呟いたのが聞こえたと同時に、アパートの一階の玄関がゆっくりと開いた。
そこから天然パーマのせいでモサモサしている兄の頭部が、こちらを伺うように出てきた。
「おう、理、来たか!来い!ここまで来いって!」
大袈裟に腕を振って誘う父につられるようにして兄は出てきたが、数歩歩いた所でピタリと立ち止まり、部屋にUターンしてしまった。
「なんだあいつ…」と父は怪訝そうに呟いたが、私にはわかった。
父と私だけならここまで出てきたと思うが、若生さんという見知らぬ人間がいたので逃げだしたのだ。
兄は極端に人見知りなのだ。
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