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✲ 𖣔 ✲
陶酔の波が引いていき、高揚がしずまる。
まるでおのれを慰めて達し、忘我の時から潮が退くように欲への興味を失うときに似ている。
頭が冴える。なにに興奮していたのかもわからなくなる。つかんでいたものから手を離し、床に落とす。鈍い音が響き、我に返る。
白い照明光が背後から差し、手もとに影が落ちていた。両手がやけに生温かく、ぬるついて不快だった。
ぼやけた視界が焦点を結ぶ。日焼けで浅黒くなった肌が見えなくなるほどに、赤く染まっている。驚愕で息を飲んだ。
なんだ、これは──?
どこかでけたたましい音が続いている。
「──さん、開けてください!」
金属製の玄関扉を、拳で叩く鈍い音が断続的に続き、張り上げる説得が耳に届いた。
「ご在宅ですよね? 悲鳴と騒音が聞こえるとの通報がありました。確認までに、ここを開けてもらえませんか」
警察だ、と直感する。むせかえるような、生々しい鉄混じりのにおいに気づく。おそるおそる両手から目を背け、周囲へと視線を走らせる。
内壁の石膏ボードが目の位置でへこんで、激しい暴力の痕跡を残していた。幾度も叩きつけられたのか、血液が四方八方に飛び散り、ずるずると下に流れて床が血の池となり、何者かがへたり込んでいた。顔面は潰れ、判別がつかない。後頭部の頭蓋から柔らかな中身がこぼれ落ち、首から肩に垂れている。
だれだ、これは。
呆然とする。身体中が熱を持ち、全身の筋肉が悲鳴をあげる。ひどく疲れている。悪い夢に思えた。
俺はいったい、なにをした?
そう考えたとたん、認めがたい記憶が舞い戻ってきた。やった覚えのない非道が、自身の振る舞いだと知る。
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