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俺はなんで……なんで、引っ越してきたばかりの、罪の無い隣人を殺したんだ?
俺の女を殺した犯人だから。いや、ちょっと待て……犯人? そもそも俺の女って──一体、誰のことだ?
ここ数年、特定の相手は作らなかった。遊びはするが、後腐れはなかったはずだ。
どうしてこんなことをしたのか、まるで納得できなかった。
ふいに視界の外側に視線を感じて、目を見開く。すぐさま振り返る。女の顔が浮いている。いや、違う。そんなものはいない。この世に存在しない、幻だ。
なのに、あの顔が見える。
乾いた地面に水が染みこむかのように、理解する。
あれを一度、見つけたら終わる。もはや逃してはもらえない。あれはやられたことをやり返す。無関係の者を巻き込んで、役割を与えて否応なく従わせ、凄惨な顛末を再現する。際限なく。ずっと。
あの女は満足しないから、終わらない。
表が騒がしい。一刻を争うと判断されたのか、玄関の鍵が開けられようとしていた。
大きく息を吐く。
目には見えないのに、いまも脳裏に居座る。生き延びるかぎり、あの女の顔を見続けることになる。
いやだ、思いどおりになるものか。
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