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眉をひそめていた。こういう合成画像には、学習元と言われる原画が無限に存在する。
これまでは習練を積んだ者のみが、想像の世界を自由に描けた。それが、一変したのだ。門外漢が努力もせずに「こういう画像を作ってくれ」と指示するだけで、人工知能と呼ばれるプログラムが自動的に、わずかな時間で欲望を具象化してくれる。
AIは、さまざまな学習元の画像をコラージュのようにばらして、再配置し、矛盾しないていどの全体の調整を施す。しかし、遠近法や技法、光源の矛盾などがあり、不自然になることも少なくない。また、指示とほど遠いものを出力してくるのもご愛敬のうちだろう。
「この手のアプリは同一画像を作らないとされてますけど、同一人物と思わしき画像を、似た角度で出してきますよ。海外で開発されたものだと地域の風景もそうですけど、人種で傾向が偏ってますし。美人の系統は黄金比や流行で似かよってて、同じ顔に見えても不思議じゃないと思いますけど」
はは、と相手は鼻先で笑った。
「よく知ってるな」
でも、そんなんじゃねえよ、と吐き捨てる。
「これが美人だってのか?」
突きつけてきた画像の上に、また指を滑らせる。
「じゃあ、これは?」
そう問われて画像に見入る。先ほどの画像と同じく、髪が長い。つぎはぎされた顔色はやけに暗くて、手前の綺麗な顔の人物たちとは比べものにならないほど崩れている。なのに、思い当たる。この女。
息が詰まった。動悸が激しくなる。
脳裏に光景が浮かんだ。暗い、夜の自室。
だれもいないはずなのに、人の気配がする。
反射的に照明のスイッチに手を伸ばし、明るくなった部屋に佇む女の姿を認める。心臓が止まりそうになる。
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