1人が本棚に入れています
本棚に追加
西島と、隣に立っていた尾藤夏海という女性が死亡した交通事故から、ちょうど1年がたった。
私は現在、天谷町に住んでいる。そこで、昔のよしみで、事故が起きたバス停まで献花しにいこうと思っていた。
尾藤夏海と彼は、いったいどんな関係だったのか……。私は歩きながら、ぼんやりと考えていた。
バス停まで行くと、1人の女性が立っていた。
「あれ、あなたは?」
「柚木理沙といいます。西島君は高校の後輩でした」
「私は夏海の姉です。献花なら、あそこに」
夏海さんのお姉さんが指さした場所に、缶ジュースと、リュックに入れていた花束を供えた。そこには、飲み物や花の他に、夏海さんが生前愛用していたというギターと、西島のキャンパスが供えられていた。
そのキャンパスには、ギターを持ち、笑みを浮かべる夏海さんが描かれていた。
「西島さん、夏海の初恋の相手なんだって」
夏海さんのお姉さんが、そういって、ギターを握った。
「アイツ、私の影響でギター初めてさ……。サプライズで、彼への曲を作ってたみたいだけど、披露できなくて、しょげてたの、懐かしいな。確か、こんな歌だったはず……」
そういって、彼女は指でギターを弾き、小さく歌った。碧い鈴音ケ浜の海に向かって。
大切なあなたのために、私は1つの曲を捧げます。
いつもは照れくさくて、とても言葉にできないけど。
今日だけは素直に、私の気持ちを伝えさせて。
いつも、隣にいてくれてありがとう。私の運命の人。
最初のコメントを投稿しよう!