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2人の関係が変化したのは、この日から約1か月後の、金曜日のことだ。
その日まで彼らは、友達だった。
その日の放課後、2人は自宅で、LINEのトークでのコミュニケーションを楽しんでいた。
祐介「乙」
夏海「うん、乙」
祐介「いやぁ。学校終わりのオレンジジュースは最高ですな」
夏海「ポカリのんどけ」
祐介「運動部じゃねえんだよ」
夏海「アオハルらしくねえなぁ。オレンジジュースって」
祐介「偏見がすげえな」
祐介「……ていうか。アオハルする相手もいねぇし」
夏海「私のことはアウトオブ眼中なんか?」
ああ、いつものダルがらみが始まった。しかもアウトオブ眼中なんてもう死語だろ……。と彼は苦笑しながら、メッセージを送った。
祐介「いつの時代の言葉だよ、それ?」
祐介「うん。そうだな……」
彼が返信に困っていると、夏海の方から、意表を突くメッセージが送信された。
夏海「私は、全然、眼中だけどね。西島のこと」
えっ……。彼はそう戸惑わずにはいられなかった。返信内容を考えていた脳内が、完全にフリーズするのを感じた。
夏海から、続けてメッセージが送られる。
夏海「ていうか、今のところ、西島だけが眼中だから……」
祐介は確信した。ああ、これは好意の婉曲表現だと。
祐介は、心が昂るのを感じた。
決して、夏海を異性として強く意識していたわけでもない。しかし、好意を寄せられて何も感じないほど、無関心なわけでもない。
気づくと、指が勝手にメッセージを送信していた。
祐介「俺もだ」
夏海は、すぐには返信を返さなかった。しばらくして、祐介の方からメッセージを送信した。
祐介「……ていうか素直じゃないな。ちゃんと言ってくれよ」
夏海「うん。そうだね……」
そうメッセージが送信されると、突如、LINE電話がかかってきた。相手は当然、夏海である。
「なんだなんだ、急に?」
「こういうのは、肉声の方がいいじゃん」
夏海の声がいつもより、僅かに大人びているように感じられた。
彼女はゆっくりと、言った。
「好きだよ、私は。西島のこと……」
予想した言葉が返ってきた。それでなお、彼女の言葉に驚きを感じていた。
彼女は続けて言った。
「西島は、どう?」
祐介は、緊張して委縮する喉から声を絞り出して、答えた。それは小さな、しかし、はっきりとした声だった。
「好きだよ。俺も……」
そう言った瞬間、LINE通話が切れた。
彼は困惑しながら、おい、どうしたんだよ。とメッセージを送信しようとした。しかし、それより先に夏海からメッセージが送信されてきた。
夏海「ありがとう」
それくらい通話で言えよ、と思いつつ、彼もすかさず返答する。
祐介「いや。おかげで思い切りアオハルできそうだよ」
夏海「よかった。別にって言われてたら明日学校休んでたわ」
祐介「明日は土曜だろ……」
祐介「ていうか、なんで急に通話切ったんだよ?」
しばらく間をおいてから、返信が来た。
夏海「こう見えても、今、涙でてるから。私」
この日から、2人は友達からカップルになった。
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