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「こんなのおかしいよ!」
声を荒げたのは、静乃と仲の良い女子だった。
「なんで、御供さんが被害者面するの! まるで恵真が御供さんをいじめているみたいじゃん!」
そして、彼女は泣き出してしまった。彼女が握ったスマートフォンの「ハピネス」が起動し、音声が発せられた。
『深呼吸しましょう。冷静な判断ができなくなります』
「うるさい!」
彼女はスマートフォンの横のボタンを長押しし、電源を落とした。
「御供さん、よくも恵真を洗脳してくれたね!」
「静乃、あたしは洗脳されていないよ」
「恵真は黙って!」
静乃はぎらぎらした目で瞳美を睨みつける。他のクラスメイトも同様だ。
殺意。その2文字を、花那は感じた。
「話にならない。瞳美、職員室に行こう」
恵真は瞳美の肩をそっと押し、瞳美は力なく頷いた。
「おい、御供!」
「ちょっと! 御供さん!」
「恵真を解放してあげてよ!」
おかしい。花那は喉から言葉が出そうになった。
クラスメイトは瞳美を悪者だと決めつける。それが正しいと信じている。
静乃の手が、瞳美に向かって振り上げられる。
『花那さん』
花那の「ハピネス」が反応した。
『大丈夫。思ったことを言いましょう。私がついています』
以前から花那の話を聞いてくれて、花那のことを冷静で偏見を助長しなかったと判断した、花那の「ハピネス」が。
大丈夫。「ハピネス」の判断が、理屈とは関係なく、心強い。
「静乃」
冷静。深呼吸。「ハピネス」がくれた言葉が花那を守ってくれる。
「静乃達が御供さんにやっていることは、いじめだよ」
「そんなわけないじゃん! 花那だって昨日から見てたでしょ! 御供さんが恵真を見殺しにしようとした現場を! 恵真のハピネスが判断したことを、御供さんは軽視して恵真を命の危機に晒したんだよ!」
「大げさだよ」
「大げさじゃないもん! うちのハピネスもそう言ってるから!」
静乃はスマートフォンを見て、愕然とした。
『静乃さん』
静乃の「ハピネス」から音声が発せられる。
『分析し直しました。あなたが御供瞳美さんに行っている行為は、いじめと判断できます』
静乃が口を閉ざし、膝から崩れるように倒れた。クラスメイトが静乃に駆け寄る。花那も静乃を支えようと思ったが、それよりも優先することがあった。
「恵真、御供さん」
ふたりを連れて教室から出る。無意識のうちに、屋上につながる階段まで走り、誰も追いかけてこないことを確認し、息を吐いた。
「花那、ありがとう。助かった」
恵真がスマートフォンを投げ出し、花那にとびついた。
「鳥牧さん、ありがとう……格好良かった」
瞳美は泣きそうな顔で微笑む。
花那は安堵したと同時に、静乃をはじめとするクラスメイトを敵にまわしたことを思い出した。
「やっちゃった……どうしよう」
『花那さん、大丈夫』
スマートフォンの「ハピネス」が反応した。
『花那さんは、ひとりではありません。ハピネス以外にも仲間がいますから』
そうだよ、と恵真と瞳美の声が重なった。
夏休みの教室は、大変な騒ぎになってしまった。二学期にも響くかもしれない。でも、大丈夫。自信はないが、きっと大丈夫。花那には「ハピネス」と仲間がいる。
「ハピネス」は分析し、判断する。ただ、それだけ。それを生かすか否かは、ユーザー次第。
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