ハピネスの判断

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『本日の予想最高気温は32度。熱中症に気をつけましょう。水分補給を忘れずに』  「ハピネス」が健康面のアドバイスもしてくれる。  花那の通う高校は、持ち物の規定が緩い。食べ物は授業中でなければ自由に食べられ、飲み物も堂々と机に出さなければ飲んでも平気だ。むしろ、先生が授業中に水分補給を促すほどだ。  花那が教室に入ると、ハンディタイプの扇風機で涼を取る人がいた。 「花那、おはよう!」  名は涼しげで大人しいが実際は明るくて勢いのある女子、浪風(なみかぜ)静乃(しずの)だ。昨年度までは、花那が一番仲良くしていた。  昨年度……「ハピネス」をダウンロードするまでは。 「あっついねー! 死んじゃいそうだよ!」  静乃の言い方は大げさだが、暑いのは事実だ。 「おはよう」 「恵真(えま)、おはよう! 今日も朝練!」 「そうだよ」  もうひとり、教室に入ってきた。水泳部の佐伯(さえき)恵真。背が高く、毛先の軽い平成時代風のボブカットに格好悪さが無く、爽やかで似合っている。しかも、モデルのように容姿が整っている。  恵真が机に置いたスマートフォンの、アラームが鳴った。暗転していた画面が薄ピンク色に変わり、画面の中央には、ピンク色のハートマークが大きく表示される。 『恵真、トレーニングおつかれさま。低血糖にならないように気をつけて』  人気俳優に似たイケボがスマートフォンから発せられた。恵真の「ハピネス」だ。  ああ、またこのアラームか。辟易してしまう自分が、花那は嫌いだ。  花那とは正反対に、他のクラスメイト達が嬉々として席を立ち、ある女子のスクールバッグに手を伸ばした。
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