(1) 半熟探偵、誕生!

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 ゴールデンウイークに丸抜中学校の吹奏楽部にお邪魔したとき、この「逃げたモーツァルト」の話題がもち上がった。お昼休憩のときだった。私たちは先輩たちと一緒に空き教室でお弁当を囲んでいた。 「あれって、ゼッタイに先生のだれかの仕業だよね」  丸抜小学校出身のクラリネットの先輩が突然、そう言いだした。 「なんでですか?」  私がおにぎりをほおばりながら尋ねると、その先輩は「分かるでしょ?」と言わんばかりの態度で主張し出した。 「だって、肖像画の中からモーツァルトの部分だけを消すとか、パソコンのプロじゃないとできないでしょ? 画像編集っていうの? そういうのができる小学生って、なかなかいないでしょ。中学生にだって、ムズカシイもん」  その先輩の言葉に、思わず私は納得してしまった。ただ、次に飛び出た言葉に、私はおどろいて飛び上がってしまいそうになった。 「だからさ、犯人は土屋だと思うんだよね」 (まさか!)  私は箸で持ち上げた卵焼きを思わず落としてしまった。なんとかお弁当箱の中に落としたから、卵焼きは事なきを得た。けれど、その先輩に同意する人が、意外と多かったことに私はさらにおどろいて、残りのおかずが喉を通らなくなってしまった。 (そんなはずない! 土屋先生が、そんなイタズラをする理由、ないじゃん!)  私はそう思った。けれど先輩方のいる手前、事を荒立てるようなことは言えなかった。反論できるだけの証拠もあるわけではないし、土屋先生が無罪だと主張することも、このときの私にはできなかった。 (でも、美術大学出身の先生だって、小学校の中にはいるって聞いたことある。絵が上手で得意な先生にだって、モーツァルトの肖像画をいじることができるはず。それにパソコンの授業の先生にだって、できて当たり前かもしれない。そもそも、若い先生ならきっとパソコンには強いはず。それなら土屋先生以外にも犯人になり得る先生ならいっぱいいるはず。そもそも、教師だとは限らないかも……。とにかく、私は土屋先生が無罪だという証拠を手に入れたい! 手に入れて、みんなに「土屋先生は犯人じゃない」って教えてあげなきゃ!)  その日その瞬間から、私は探偵になろうと思った。どうやったら探偵になれるか分からない。けれど、きっと探偵になら、証拠の集め方や人を有罪・無罪にするための方法を知っているはずだ――そう思ったのだ。  甘い考えかもしれない。でも、以前から探偵という存在にあこがれていた私には、これ以外に土屋先生を救う方法が思いつかなかった。 (探偵になれば、土屋先生の無実を証明できるはずだ)という答えこそ、同時に私の覚悟でもあった。
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