(2) カエル

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 私と千紘は互いに折り紙を読み上げてみては、首をかしげた。そのまま謎を解こうとしてみたけれど、運が悪いことにすぐに宮内先生がクラスへ見回りに来て「用がないなら帰りなさい!」と私たちを追い立ててきた。私は仕方なく千紘と一緒に学校から帰ることにした。  暗号文は千紘の同意を得て、私がもらって帰った。そして近所に住む千紘と別れて家に帰れば、まだお父さんもお母さんも帰っていなかった。(ラッキー)と、私はまっすぐに自分の部屋に入るなり、ランドセルを部屋の隅に放って方位磁石を探しはじめた。  東だ西だ、北だ――と暗号文に書いてあることから、私が最初に連想したのは方位磁石だった。 「たしか、節分のときに恵方巻を買ったら、方位磁石が付いてきたんだよねー。それがどこかにあったはずなんだ……」  ごちゃごちゃとした部屋の中から方位磁石を探し出すのに、十分ほどかかった。けれど、ふだん使わないペンケースの中から、お気に入りで使えないえんぴつやボールペンと一緒に方位磁石を見つけ出した。えんぴつの芯や消しゴムのカスでうす汚れたそれを、勉強つくえの上に置いてみる。となりにカエルを開いた折り紙も置く。 「うーん。暗号って言うよりも言葉遊びっぽいんだよなあ。本が来た、と本が北。来たと北。ダジャレだよね」  私は思わずふふっと笑いながら、くり返し暗号文を読んだ。 「犬が西向きゃ、尾は東。聞いたことあるなあ。ことわざだったかな?」  つくえの隅には本や辞書が積み上がっている。その中から国語辞書を取りだすと、犬が西犬が西……とつぶやきながらページをめくっていった。するとやはり、ことわざとして「犬が西向きゃ尾は東」が載っていた。 「犬が西を向けば、当然しっぽが東を向くことから、当たり前すぎるほど当たり前であることのたとえ。そうだよね、前を向けばおしりは後ろにあるわけだし、西を向けばしっぽは東だよね」  すると方位磁石を見ていた私はひらめいた。 「それなら、北を向いたら背中は南だよね? 本があった場所が北なら、何かが南にあるってこと……?」  とたんに私は立ち上がった。学校に行って確かめたいと思い立ったのだ。けれど、ちょうどそのタイミングで家の玄関が開いた。お父さんかお母さん、どっちがが帰ってきちゃったんだ――。 「ただいまー。多満子、帰ってるの? なら電気ぐらいつけなさいよね」  お母さんの声だった。部屋の時計を見れば、もう五時を過ぎている。今から学校に行ったところで、校門はしまっているかもしれない。私はくちびるを噛みしめた。 「ほら、帰ってるんじゃない」  お母さんが私の部屋に入って来ると、呆れたようにため息をついた。 「晩ご飯のしたくをするから手伝ってちょうだい」  私は暗号文の書かれた折り紙を見下ろしながら不満げに「……わかった」とうなずいた。  今から学校に行くことはできない。だから暗号が正しく解けたのか、調べることができない。それなら明日の朝、早くに学校へ行って確かめてみよう。 「多満子? 早く!」 「はぁい。それよりお母さん、今晩のメニューはなあに?」  私はお母さんのうしろにくっついて台所に行った。考え出すと気になってしまうから、暗号のことをできるだけ忘れるように、お母さんの手伝いを頑張ったのだった。
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