(2) カエル

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 ランドセルを教室におくと、方位磁石と暗号文の書かれた折り紙を持ってトイレに向かった。トイレで方位磁石を取りだすと、やはりというべきか、トイレの方向を北が指していた。すると、南の方に何かがあるはず。私の予想だと、盗まれてしまったあの、英語の文が書かれた紙。  私はトイレを背にしてまっすぐに立ってみた。幅が三メートルほどのろうかがあるだけ。私は方位磁石を手にしたまま歩いてみた。壁にぶつかった。上半分は窓ガラスだけれど、その窓にも特に異常はなかった。 「うーん、ちがったのかなあ」  窓ガラスを開けてみて、顔をつき出してみる。すると突風がさあっとふいて前髪を揺らした。 「あっ!」  その突然の風に、暗号の書かれた折り紙が奪われてしまった。私がいるここは三階で、窓から見下ろすと、ちょうど真下の側溝に緑色の折り紙が落ちたのが見えた。 「急いで取りに行かなきゃ」  ろうかを走ってそばの階段を駆け下りると、上履きのまま外へ飛び出した。トイレの前の窓から見下ろした場所に立てば、目の前には広いグラウンドがある。朝早い時間ではまだ遊んでいる生徒の姿は少ない。側溝に落ちていた折り紙を拾うと、ふと方位磁石を取りだした。  壁が北をさしている。三階とは違って、グラウンドの向こうまで南の方向は広がっていた。私はおもむろに方位磁石の南の指す方へと歩いてみた。顔を上げてみると、グラウンドの端には多くの高木が植えてあった。その向こうは塀になっていて、この塀を越えるともう小学校から出てしまう。  私は木々のあいだを見渡してみた。春は桜がきれいに咲くけれど、今はみごとに葉が生い茂っている。その木々から少し目線を下げてみる。すると灰色がかった百葉箱に目が留まった。百葉箱に向かってゆっくりと歩いた。 「百葉箱。理科の授業できた以来だなあ。それで、ここからトイレは――」  百葉箱のとなりに立って校舎を眺めると、ちょうど三階にトイレが見えた。 「ここだ! ここが本のあった北に対する、南の位置なんだ!」  すぐに方位磁石をズボンのポケットにしまうと、しゃがみながら百葉箱の足元をぐるっと見てみた。足もとの土には、何かが埋まっているような盛り上がりや、最近ほり返したような跡は見当たらなかった。それなら……と私は立ちあがる。 「じゃあ、百葉箱の方」  目線を上げて、百葉箱を一周ぐるりと見てみる。すると百葉箱の裏側に一通の封筒がテープで留められていた。 「あった!」  私は急いでその封筒を百葉箱から剥がした。それはついさっき貼りつけられたのだろうかと思ってしまいそうなほど、まだキレイな白い封筒だった。差出人もあて名も書いてない。そして封もしてなかった。 急いで封を開けると、中にはあの二つ折りのルーズリーフが見えた。私はその場で紙を開こうとした。  けれど、ちょうどそこで朝の予鈴が鳴ってしまった。十分後のチャイムまでに教室にいないといけない。私は封筒をにぎりしめると歯ぎしりを鳴らした。 「せっかく暗号の紙を取り返したのに、読めないなんて」  でも、今ここで紙を読みふけり遅刻でもしてしまったら、すぐに担任から両親へ連絡をされてしまうだろう。 「半田さんが遅刻しましたが、何がありましたか」と。そしたら早起きしたことも含めて、お母さんに怪しまれてしまうだろう。そこまで考えて私は、鼻息を荒くしながら校舎へと駆けだした。 「とにかく、もうこの紙は失くさない。ゼッタイに読んで、犯人を見つけ出してやる!」  息巻く私は、地面を蹴る足に力を込めた。
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