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河童は、その人間の娘の事を昔から知っていた。
川のそばにある家で、娘が生まれた時から、ずっと。
娘が10歳の年の夏、川に落ちて溺れたのを助けた。
河原に上げた時には意識が朦朧とした状態で、何も覚えていないと思ったが、それから毎年欠かさず、助けた日と同じ日に、河原にある大きな石の上に、胡瓜がたくさん置かれるようになった。
数年前、娘が胡瓜を石の上に置いている所を偶然にも見掛け、すぐに岩陰に隠れた。
置いた後、何かを探すかのように、川を見渡していた。
娘が17歳の年の、何でも無い夏の日の夕方。
例の石の上に、胡瓜がたくさん置かれているのを見つけた。
娘と言葉を交わした事も、面と向かって顔を合わせた事も無かったが、それが何を意味しているのか、河童は悟った。
朝の清々しい空気の中。
花嫁衣裳に身を包んだ娘が、母親に手を引かれ川のそばを歩いていると、毎年、胡瓜を置いていて、昨日も置いた石の上に、白い何かが置かれているのが見えた。
母親の制止を振り切り、河原を歩いて行くと、そこには白い花がたくさん置いてある。
娘は、花を手に取り、頬に寄せ、化粧が崩れるのも構わず涙した。
了
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