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シュン
「施設育ちなもんでな。血は繋がってないけど。あ、言ったこと慧史に言うなよ」
あの時。
慧ちゃんにからかわれたんだと思った。
妹とか、お姉さんとか、好きな方選べみたいな言い方するから。
でも、それは、結構真実で。
なんか。
ほら、また。
俺は、そうやって絡めとられていくんだ。
「あ、もしもし慧史? 輝夜来てくれてんだけど、おまえ、いまどこ? グランホテル? なんで? ……え? シュン? ああ。それどうよ」
シュンって言葉に、胸がキュッと縮まった。
それは、今慧ちゃんが目をかけてるっていう新店舗の子。グランホテルは、いわゆる、慧ちゃんが使う、セックス用のホテル。
ああ。
俺を迎えにこれなかったのって。
そういうこと。
「ふーん」
まあ、いいけどね。
別に。
「……ごめん、ちょっといい? あちらのお客さまが輝夜くん指名したいって言ってるんだけど」
最近予約のお客さんばっかりで店に出ることが少ないから、声をかけてきてくれたこの子の名前も知らない。
その子の指差す方に目をむけたら、背の高い男の人がアイコンタクトを取ってきた。
「じゃあな。……ああ、悪いけど輝夜な、今日店へは書類を届けに来ただけなんだ。俺ちょっと断ってくるな。あ、そんで慧史だけど、まだかかりそうだから、輝夜もう帰っていいよ」
俺ほったらかしで、シュンとヤッってるんだって思うと。
やっぱりヤサぐれた気持ちになる。
「いいよ。俺、仕事、して帰るよ」
「いや、でもな……」
だって。
中途半端な撮影用のエッチのせいで燻ってんだもん。今日迎えに来てくれるっていうから期待してたのに。
ふん。
慧ちゃんのバカ。
遠目に、殆ど目を閉じるみたいにして見たら、慧ちゃんに似てなくもないスタイルのいい男の人のとこへ、俺は一歩足を踏み出した。
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