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真夜中の来訪
「どうしたの?」
真夜中の来訪に驚く俺に慧ちゃんはスーツの上着を押し付ける。ふわっと漂うボディーソープの香りに、ああ、どっかでシャワー浴びたんだなぁなんて思ってる間にも、俺を取り残し、さっさと奥へ入ってしまった。
「なんか食うもんある?」
言いながら、ものすごく自然な流れでテレビの前のソファーに座って電源を入れた。
「あ……あの、スープとパスタくらいしか……ないけど」
「ああ。そんでいい」
「15分くらい、かかるけど……」
「うん」
「…うん」
俺は慌ててキッチンへむかうと、パスタを茹でながら深呼吸してドキドキと打つ心臓をなんとか鎮める努力をしてみた。
え。なんでっ?
だって……。
ええぇ!?
そりゃ今までだってマンションに来たことはあるけど、でもそれは、それこそ昨日みたいに怒ったときとか、俺がどうしようもなく拗ねてストライキ起したときとか、病気になったときとか、まあいえば特別な時で、こんななんもない平日の夜中に「食うもんある?」なんて。
昨日こと、まだ気にしてくれてるの?
うわ。
俺、もう全然気にしてない。どころか、昨日かなり甘やかしてもらって、もう俺としては後ろめたいくらいの気持ちで……。
え。
でもっ。
どうしようっ。
パスタったって、ろくな材料もないのにっ。
「こんなのしかないけど」
冷蔵庫の中身と相談した結果、小さなテーブルの上に並んだ水菜とシメジのパスタと自分用に作り置きしてるミネストローネ。
スマートフォンを弄っていた慧ちゃんは、それを見てほんの少し目を見開いた。
「おまえが作ったの?」
「うん、まあ」
「出来合いのソースぶっかけたのが出てくるかと思ったのに」
「あんまりああいうの食べないから……」
それこそオリーブオイルと塩胡椒だけの方が好きだから無理に市販のソース買う必要もなくて、でもさすがにそんなの出すわけにはいかないからと入れたシメジとサラダ用に買ってた水菜。
有名店や高級店でご飯を食べることの多い慧ちゃんが食べるのかと思うと、それこそ無難に市販のソース置いておくべきだったと唸りそうになった。
「ふーん」
慧ちゃんは興味なさげに返しながらパスタを適当にフォークに引っ掛けて口に運ぶ。
「ああ。俺もこっちのがいいわ」
美味いとか、そんな言葉をくれたわけじゃないけど、とりあえずは及第点だったみたいでホッとした。
「コーヒー、インスタントしかないけど入れる?」
普段キッチリした場所でしか一緒にご飯を食べたことなくて、だからこんなふうにテーブルに肘をついて、挙句片膝をたててままなんて行儀の悪い姿は初めてで、ほんとなら目を顰めるような姿にまで無駄にドキドキしてしまう。
「ああ。そんでいい。入れて」
そこで慧ちゃんが視線をあげて俺を見た。
「あ。セリフがいつもと逆だな」
一瞬何を言われたかわからなかったけど、よくよく考えてればそういうこと。
「………なっ」
想像して、あまりの”なさ”に何て返していいかわからないでどもってたら笑われた。
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