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バードキスとゴール
「日本の試合じゃないんだね」
「まあ、ヨーロッパのリーグだからな」
「ふーん」
試合は昨日だけなのかと思ったら今日もあって、この先もまだ少し続くらしい。
なんでか俺のマンションで観るって決めたみたいなのがやたら嬉しくて、俺はサッカーにはまるで興味ないけど、ここぞとばかりに隣に座って一緒に画面を眺めた。
そしてどっちのチームにも点が入らないまま前半が終了したとき、もの凄く自然な流れでキスされた。
軽く合わされた唇。それが同じ軽さで何度か繰り返された。
え、もしかしてこれバードキスってやつ!?
小鳥が木の実をついばむみたいなその軽いキスはベロチューよりもよっぽど恋人同士みたいな感覚を与えてくれる。
まるで初めてキスしたみたいに心臓がドキドキした。今まで何度も腰が抜けるようなキスもしたし、それどころか濃いエッチもしたってのに。
うわぁ。どうしよう。これは、幸せ過ぎるかもしれないっ。え、俺、こういう場合どうしたらいいの?
下手に動いたらせっかくのこの魔法の時間が終わってしまいそうでギュッと目を閉じたままの俺の目に、チュッと音をたててキスが落とされた。
髪を梳かれて目から頬、また唇に戻るキスに満たされて、零れて、泣きそうになる。
唇が柔らかく食まれたかと思うと、ちょっとだけ引っ張るみたいにして音をたてて離れていく慧ちゃんの唇。
何回も。
何回も。
ああ。腕回しても、いいのかな?
調子にのってないかな?
勝手が違うと、どうしていいかわかんない。
そっと目を開けたら黒曜石の瞳がそこにあった。
目が合った瞬間、唇が離れる。
「……ぁ……」
名残惜しすぎて目なんて開けるんじゃなかったと思った次の瞬間、頬に手が添えられ、角度をつけられて、さっきよりも強く唇が押し当てられた。
上唇をそっと舌でなぞられて、また食まれて、かすかに歯を立てられる。
ちょっとずつ深まっていくキスに息があがった。
舌が絡み合った頃にサッカーの後半戦が始まる音が聞こえてきて、15分もキスだけしてたんだってトロトロになった頭で思って余計感じて、でも、きっとこれで終わっちゃうんだと思って悲しくなってしがみついたら、口を合わせたままソファーの上に押し倒された。
サッカーの実況に紛れるみたいに濡れた音が部屋の中に響く。
慧ちゃんの指が俺の体を這い、最初の戸惑いを忘れるほど気持ちが高ぶった、その時だった。
「ゴーーーーーーール!!!」
テレビから聞こえてくる叫び声。
どっちかが得点したらしいその声と歓声に慧ちゃんの手が止まった。
一瞬、黒曜石の瞳が俺を真っ直ぐ見据え驚いたように瞬く。でもそれはほんとに一瞬ですぐ俺から目を逸らすと、上体を浮かせてテレビ画面に目を向け溜息を一つついた。
「見逃した」
そう呟くと早々に俺から体を起こしてテレビ画面に釘付けになってしまう。
え……。
嘘でしょ?
こんな状態で放置?
ううぅっ!
サッカーに全く興味のない俺。
でも得点したその某国の選手のことを、俺は一生忘れないと思う。
代表戦に出て日本と試合するようなことになったら、全力で日本を応援するんだっ!!
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