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唐突な連絡
「おう、里山だ。お前、今家だろうな?」
「え? ええ…はい」
サトヤマっていうのがあの里山さんなら、慧ちゃんのオジキ分とかいう人だ。 四角い顔に鋭い目をした怖そうなおじさんで、初めて会ったとき挨拶したら無視された。
慧ちゃんに言ったら「男同士のセックスをバカにしてるんだ。気にするな」って言われて、だからほんとに接点なんかなくて、突然の電話にビックリしして慌ててしまう。
「女でもなし20分ありゃ用意できるだろ。車やるからスーツ着て下まで降りてこい」
「え、あの、でもっ」
慌ててどもってる間にも電話は切れてしまった。
「…なんで?」
一人の部屋に間抜けな声が響く。
え、なに、俺、どうしたらいいの?
スーツ着てこいって、どういうこと?
とにかく慧ちゃんに一言伝えようと思って携帯を鳴らしてみるけど一向に出てくれない。
「うーっ、お願いだから出てよっ」
それでも里山さんは慧ちゃんの上の人には違いない。完全なパニック状態に陥って階下に降りたときには三分オーバーしてて、ホッペに入れ墨いれたスキンヘッドの運転手に、吐き捨てるみたいに詰られた。
それこそ政治家の人が会食でもしそうな、何からなにまでが高そうな料亭。
慧ちゃん知り合ってから色々と高級なお店にも行くようになったけど、さすがにこんなとこは初めてだった。
お客さんと食事するのもエッチするのも洋風のホテルがほとんどで、和風な感じがまたやたら緊張を煽る。
俺の前に立って静々と歩を進めつつ俺を案内する和服の女の人が障子の前で膝をつくと「失礼いたします。お連れ様がお出でになられました」と、中へ声をかけた。
「やっと来たか、入りなさい」
中から年配の、それでもしっかりと腹から響くような声が聞こえて、女の人は優雅な仕草で障子を開けると一度中に深くお辞儀をし、そして次は俺に中へ入るよう促した。
おそるおそる中をのぞくと妙に広い座敷の中には2つ、1つの配置で3つのお膳が設えられてて、二つ並んだお膳の一つには里山さんが居て、その前の上座にはがっしりとした和服のおじさんの姿があった。
「あ、このたびは、お招きいただきまして……」
スキンヘッドの運転手に言われていたとおり、とりあえず敷居をまたいだ畳の上に正座して頭を下げる俺の言葉を、和服のおじさんが遮った。
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