最終話

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最終話

 慧ちゃんの唇から漏れる吐息に体が震える。  そしてのその唇が耳朶を食み、首筋を滑り、鎖骨を彷徨い、胸に辿りついた頃にはもうすっかり昂ぶってて、その唇を、指をしっかりと覚えておこうと思うのに、快感を追うだけにいっぱいいっぱいになってしまう。 「……あっ…!!」  胸の尖りが熱い粘膜に包まれる。  それだけで体が跳ねて、腰が痺れた。 「……んぁっ……はっ…」  言葉を漏らさないように自分の腕をグッと噛む。 「……ふっ…んっ……んん…」  口に含まれたままチロチロと舌先で弾かれては音をたてて吸い上げられ、離されてはまた舌先で弄られる。押し寄せる快感に体がのけぞり、反動で噛みしめた腕が痛んだ。  慧ちゃんが声を我慢する俺の腕をはずすと、唇を合わせ深く舌をねじ込み、俺の喘ぎごと舌を絡め取っていく。  ああ。  慧ちゃん。  慧ちゃん。  何度も何度も心の中でその名を呼ぶけど、声に出さない反動なのか、いつも以上に体に熱がこもってしまう。  そして太腿に当たる慧ちゃんの硬さが、俺を求めてくれてるんだって思えば嬉しくて、もう頭の中が焼け焦げそうだ。  クチュクチュと湿った音を響かせて交わされるキスの間にも、慧ちゃんの指は俺のベルトをはずし終えていて、すっかり勃ちあがった俺自身に指をはわし、ゆっくりと撫で始めた。 「……ん…ぁっ」  先走りの滲んだ先端を慧ちゃんの指が優しく滑る。  まどろっこしい気持ち良さに思わず腰を押し付けると、交わしたままのキスが一層深くなった。  長い指が俺自身をグッと包み、強弱をつけて上下に扱かれだせば、ますます荒くなる息に、キスをするのも苦しくなってくる。  やっとキスから解放されて大きく息を吸い込もうとした瞬間、後に這わされた指にまた息がつまった。 「……あ…ぁ…」  その名を口にしそうになって、また慌てて自分の腕に歯をあてる。  慧ちゃんがヘッドレストにおいてあったローションのパウチを手にし、端っこを噛んでで開けてるその間も、片方の手は俺の下肢を這いまわってて、まともに息をする余裕なんて全く与えてもらえなかった。 「っは……ん…んっ…」  ひやりとした粘着質な液体を感じた矢先、既にもう慧ちゃんを欲しがってヒクついている後ろの部分に慧ちゃんの指を感じる。  孔の周囲から丁寧に解すその指が恨めしいくらいに、俺の色々が慧ちゃんを欲しがっていた。  けど。 「……っいたっ…」  慧ちゃんの指がある場所に触れたとたん、ぴりりとした痛みに体が跳ねた。  里山さんに無理やり突っ込まれた時のものだ。  慧ちゃんは、里山さんと俺との間のことを聞いていたのかも知れない。俺の体を抱きしめると首筋に顔を埋めてそこに唇を押しあてながら、何度も何度も髪を梳いてくれた。  こういうのは。  本当に。  だめだよ、慧ちゃん。  優しくされたら、泣いてしまいそうになるよ。  好きだって。  言ってしまいそうになる。  名前を、呼んでしまいそうになる。  けど俺のなけなしの矜持っていうのの為に、今日は。  今日だけは、呼ばない。  好きだって、言わない。  そう。  決めたから────  泣き出してしまうその前に俺は慧ちゃんのベルトに手をかけた。  俺だってもう何も知らない中学生じゃないんだとばかりに、熱く硬い慧ちゃんに指を絡めて刺激する。  慧ちゃんの耳の後ろを甘噛みして、舌を這わせた。 「……早く、欲しい……」  耳の傍で囁けば、手の中の慧ちゃんが嵩を増して、つられて俺自身までがズクンと疼いた。  前と後ろをぬちゅぬちゅと同時に弄られて身がよじれる。  のけぞった喉に歯を立てられ、そのまま顎のラインにそって舐め上げられて、今度は顎に歯を立てられた。 「……あっ……や…あぁ……」  すっかり知られてるイイ場所を指先で責められ、何度も突き上げる快感に涙が滲む。   その涙を唇で吸われて、それすら感じて、俺は水に飢えた人間がそれこそ水を求めるみたいに慧ちゃんの唇にむしゃぶりついた。  好き。  好き。  好き。  なんで俺が俺でいられるのか不思議なくらい、俺の中は慧ちゃんでいっぱいなんだ。  唇が離れ俺を溶かしていた指が離れたかと思ったら、脚を抱えあげられて、ゆっくりと慧ちゃん自身の熱が埋められた。 「……んっああっ……」  充足感にまた涙が浮かびそうになる。  すっかり埋まりきったものが馴染むその間に、お互いひっかけてた服をすべて脱ぎさった。  服着てると細っこく見えるのに、目の前にある裸の体はやたらと筋肉質で、浮き出た筋や男らしい張りのある肌に欲情して、つい後ろがキュッと締まってしまう。そしたらそれに返すように中でギュッと硬くして、そのやり取りにちょっと二人で笑った。  何度も交わったはずなのに。  なんでか初めてのような。  切ない、感情。  俺は慧ちゃんの体を引き寄せると、しっとりとした滑らかな肌に鼻頭を擦りつけ、スンとその匂いを嗅いだ。  ああ。  なんていい匂いなんだろう。  合わさった肌の温もりがただただ心地いい。  うっとりとする俺の頭に、慧ちゃんの唇がおしあてられた。 「……輝…輝…」  何度も名前を呼ばれて、もう耐えきれなくて、涙と一緒に嗚咽がもれた。 「う……ううっ……」 「輝…」  ずるい。  今までもうずっとセックスするとき名前なんて呼ばなかったのに。  俺、必死に我慢してるのに。  こんな風に。  ずるい。 「……け…い、ちゃん……慧ちゃん、慧ちゃん、慧ちゃん」  我慢なんて、できるはずなくて。  我慢した分、壊れた機械みたいにその名を口にしてた。  特別な、特別な、  その名前を────────
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