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ヤケとキス
「……んっ…」
強引に押し倒されて舌を突っ込まれて、驚いたのと同時に体に火がついた。
だって慧ちゃんは普段こんな風にキスしない。
さっきも思ったけど。
今日の慧ちゃんは、やっぱりなんか違う。
酔ってるから?
いつも余裕のある、相手の反応を見て快感を呼び覚ますような大人のキスをして俺を、他の誰かをドロドロに溶かすのに。
なのに今の慧ちゃんは俺のことなんか全然おかまいなしで、自分をぶつけてくる。
「ああ……けいちゃん……」
だからここがリビングで、さっきの女の人が向こうの部屋にいるっていうのに、ついつい迎え入れてしまう。
「……いたっ」
耳に、首筋に、歯を立てられた。
痛いのは好きじゃないのに、なんでか快感みたいに思えて呼吸が荒くなっていく。
「ああ…」
その時だった。
玄関の方でガチャッと音がしたかと思ったら、「
あ」って短い声がして、次の瞬間には卯花さんが顔を覗かせていた。
「おーい、またかよ。これからヤるとこだから邪魔すんな」
二度目の邪魔に、慧ちゃんはまた俺を組み敷いたまま卯花さんを見上げた。
「んなことやってる場合じゃねえぞ。高崎さんが慧史から連絡ねえって何回も月の宮の方に電話よこしてさ。さっさとかけとけよ。自棄酒も自棄セックスも後だ、後」
高崎という名前を耳にしたとたん慧ちゃんの顔が歪む。
大きな息一つ、マナケモノみたいにのったりと体を起して、這うようにソファーの向こうのスマホを手にとった。
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