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「また家でね」
「うん、今日は一緒に帰れると思うから、また連絡するね」
会社の駐車場に車を置き、いつもと同じ会話をする。
誠司さんの言葉に私はコクリと首を縦に振る。
会社の終わる時間は一緒だけれど、営業と企画で部署が違うので、もちろんその日によって残業がある場合もある。
だから、会社からの帰りは基本的に別々で帰っている。
けれど、お互い残業がない場合は一緒に車で帰る。
これが、私と誠司さんの日常だった。
エレベーターに乗って、4階を押す。
企画と営業は廊下を挟んでお互い半分ずつが部署の位置になる。
ごくたまに廊下で誠司さんとすれ違うが仕事に恋愛は持ち込まないようにしているので、ペコリと軽い会釈だけ。
「おはよう」
自分の席に座りながら、隣の後輩に声をかける。
「おはようございます、歩実さん」
ニコリと朝から可愛らしい笑顔を向ける私が今教えている後輩。
年齢は私の3つ下の26歳。
この会社には新卒からいるみたいだが、今年の春ー4月から企画部の方に部署移動をしてきて、ほぼ新人も同然な彼。
彼の名前は、荒木啓介(あらき けいすけ)。
パーマをかけたみたいにふわふわした茶髪にすらっとした高い鼻に薄い綺麗な唇。
顔が整っているから会社内で女性から人気なのは十分頷ける。
「出社して早々すみません、ここの資料のレイアウトがうまく決まらなくて…」
パソコンの画面を指差す。
顔をグイッと啓介くんのパソコンに近づけて確認する。
「あ〜、その場合は、ここの配置をこうして…。
あ!ここもずらしちゃおっか。そしたら、ここに空白ができるから当て込んでみて?」
マウスを借りて、配置を少しいじる。
「……よし、これでいいと思うよ?」
「なるほど…。その手段もあるんですね…。」
私のレイアウトをまじまじと見て、メモをする。
そして「ありがとうございます!」と私にお礼をした。
啓介くんは、本当に真面目だ。
すぐにメモをとっては仕事に活用していくから教えがいがある。
「坂野ー」
「はーい」
部長に名前を呼ばれて、いつものように仕事を淡々としていく。
だから、朝のシートベルトの違和感を忘れていた。
でも、お昼に思い出してしまうのだー。
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