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誠司さんに違和感を覚えて1ヶ月がたった。
最近、誠司さんとは時間が合わなくて、今日は、久しぶりに誠司さんと会社終わりに一緒に帰ることができた。
いつもと変わらず、一緒にご飯を食べて、たわいもない話をした。
そして、今は、誠司さんがお風呂に入っている。
机の上を台拭きで吹いていると、ふと机の上の端に誠司さんの携帯が私の視界に入った。
『携帯の画面を隠すなんて、見られたくないものでもあるんですかね?』
昼間の啓介くんの言葉が脳裏に出てきた。
…見られたくない、もの。
自然と誠司さんの携帯に手を伸ばす。
そんな自分にハッとして手をすぐに引っ込めた。
だめよ、私!
しっかりするの!
誠司さんを疑ったら、ダメでしょ?
そう思うのに、最近の誠司さんは明らかおかしい。
お付き合いから6年も一緒にいるんだ、嫌でもわかる。
食事中に携帯をいじる回数も、飲みに行く回数も前より格段に上がった。
仕事が繁忙期だからって言われると、わからなくもない。
この時期は確かに繁忙期だ。
でも、そうじゃない。
何だろう、女の直感って言えばいいのかな…。
家に帰ってきた時の誠司さんの落ち着き方が少し違うし、雰囲気も違うのだ。
誠司さんに違和感をより感じてしまっている。
リビングの扉からチラッと脱衣所を見る。
ジャージャーとシャワー音が聞こえる。
まだ、しばらくは上がってこなさそう。
…少し、だけ。
ほんのちょっと、見るだけ…。
何もなければそれでいい。
ただ、私が気にしすぎただけ。
自分の精神も落ち着かせるため、誠司さんには悪いと思いながらも、携帯を手にして、ロックを外す。
そして、最近のメッセージを確認した。
え…?
なに、これ…
携帯の画面を目を丸くする。
見てしまったことをとても後悔した。
だって、メッセージのやり取りの名前はヒロキという男の名前にも関わらず、
メッセージの内容がとても男だとは思えないやり取りだったからだ。
【今日はありがとう♡】
【こちらこそ】
【またしようね♡それまで楽しみに待ってるね!】
【待ってて】
明らかヒロキという男とのやりとりではなく、女性とのやり取りだということが嫌でも理解できる。
またしようね♡って何?
何で?
何で名前を変えるの?
そんなに私に隠したいの?
名前を変えて、私に怪しまれないようにするほどの〝仲〟ということがわかる。
誠司さんがお風呂に入っている間に、自分の携帯でこの画面の写真を撮る。
名前が変わっているから、証拠にはならないかもしれない。
それでも、もしものために証拠として残しておく。
画像の欄まで見ようとした途端、脱衣所の方からガチャとお風呂から上がる扉の音が聞こえ、
誠司さんの携帯から私が見た履歴を削除し、元の場所に戻し、私はキッチンで洗い物をする。
これで、私が誠司さんの携帯を触ったことはバレないはず。
「ふぅ〜、お風呂上がったよ」
何事もなかったかのようにタオルで髪をガシガシと拭きながらリビングにきた誠司さん。
その姿にー振る舞いにとても腹が立つ。
ムカムカする胸を、深呼吸して落ち着かせる。
歩実、ここで誠司さんを問い詰めたらダメよ。
証拠が揃っていない。
誠司さんも絶対に認めないもの。
もう少し決定的な証拠が欲しい。
ーううん、違う。
私がまだ、信じたくないだけかもしれない。
「うん、ありがとう。
じゃあ、私も入ってこようかな」
誠司さんから逃げるかのようにして、脱衣所に向かった。
そう。
私は、まだ信じたくないだけ。
ー誠司さんが〝浮気〟をしているなんて。
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