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マスターは椅子に座り直し届いていたメールに目を通し始めました。
ディスプレイの光源だけが灯りの世界でカチャカチャとキーボードを叩く音だけが響きます。
「暗いと目を悪くしますよー」
念のため声をかけても気がついてません、これはかなり集中してますね。
前みたいに大音量にすることもできますが辞めときましょう、私は空気の読めるアンドロイドです。
やがてキーボードの音も止まりマスターが椅子に体を預けたところで傍に寄ります。
「依頼ですか?」
「そうだ、相変わらずお前にしか頼めないタイプのな」
「えー嫌ですよー、それならマスターが女装して行けばいいじゃないですかー。こうフリルのいっぱい付いたゴシックなドレスとかどうです?」
「しないしそもそも俺じゃ無理なんだよ、知ってるだろここに来る依頼がどういう物なのか」
「分かってますよー、ちょっと言ってみただけですー」
アンドロイドには様々な仕事があり、データを調整することによって特化したものを作ることが出来る。
その中の一つが女性のレンタル屋、いわゆるレンタル彼女。
顧客が求めるデータをインプットしてそれっぽく振舞えるこの稼業は餃子とご飯のようなベストマッチな相性だったんですがねぇ。
「マスター今回の顧客データってどんな感じの人でした?」
「これだな、大企業の社長。女遊びが激しいらしくお手付きが何人もいる」
「へぇー、猿から進化でもしたんですかね?」
「やめろ猿に失礼だ」
広義で見れば人間も猿の一部だとは思うんですが、まぁ言わない方が吉です。
それにしても画面から顔を離さないままの会話って楽しくないですね。
「よし、後はこれでいいか」
マウスを操作すると傍に会ったプリンターが稼働しそこからよく顔を見る券が筍の如く出てきます。
「わーい衣装無料券、いい響きですよねぇタダって」
「事前に話は通しといたから、そこ行って依頼主の好むやつを見繕ってもらえ、それからこれ」
手渡されたのは未だ懐かしいUSBメモリ、によく似たSSDですねこれ。
「ペルソナデータ、依頼人のバックや嗜好を調べてデータ化したものだ。そいつをインストールすればお前の仕事も楽になるだろ?」
「わーお、マスターってばサポート上手」
「この程度のことは簡単に調べられるよ、そいつを活かせるかはお前次第だけどな」
「任せてください、これでも特別なAiですので」
「分かってる、終わったらデリートしておけよ。悪影響出たらたまったもんじゃねぇ」
「出会いは一度きり、切ないものですねぇ。ヨヨヨ」
それっぽく言ってもマスターは無反応、これは本当に眠気が限界まで来てますね。
「俺はもう寝る、だから後は任せたぞ藍野」
「了解です、次起きた時は大金を用意しておきますよ」
「あぁ、期待してるよ」
貰った券を財布に入れてからゆっくりとその場を離れます。
本気で寝ようとするマスターを起こすわけにもいきませんから。
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