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それからというもの、形式上はデートだというのに私には目もくれず、周囲を見回しては視界を戻すばかり。
こっちとしては楽でいいんですけどなーんか妙に気になるんですよねぇ。
「如何しましたか小林様」
「嫌なんでもない、少し用を足してくる」
そう言うとすぐにトイレに向かって去っていく、ほんと何がしたいんでしょうあの人。
「今のうちに検索しておきますか」
マスターが集めたデータを閲覧し、整理していく。
「小林幸久、製造パーツ専門店テックグランの社長で女癖の悪さで有名、SNS上でもそんなに評判は良くないですね。過去に女性関連のトラブルを引き起こしたことも」
見れば見る程今回の以来の背景が見えてきましたよ。
「現在はキャバクラにて嬢の一人に惚れこみ散財しまくってる。しかし半年ほど前から急に動きが無くなった、なるほどそういう事ですか」
もちろんこれは私の推論でしかない、だけどさっきの不審な動きを足せばまず納得がいく。
つまりこれは「相手に見せつける必要のあるデート」という訳だ。
周囲を見渡しているのは相手が近くにいるかを探るため、そしておそらくトイレの中では今頃メールでもしているんでしょう。
「久しぶりに会いたいな」とでもいうつもりなんですか。
「世の中こんなので溢れてますねぇ」
一気に帰りたくなってきましたが、まぁその意図が読めたところで還る訳にはいかないんですよね。
依頼を完璧にこなしてこその私たちなんですから。
表情を柔らかくするために指先から振動を顔に当てているとどうやらあの人が戻ってきました。
「あぁすまない、待たせた」
「いえ大丈夫です、次はあちらの方は如何でしょう?」
よく人目に付きそうな場所を検知してさり気なく誘導する。
「ほう、君も私の好みが分かってきたかい?」
そんなもん既に分かってるっての、それと軽率に撫でようとするな。
「でしたら行きましょう、小林様」
先ほどと同じように影を踏まずについていく、本当に面倒だから早く終わってほしいんですよこれ。
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